第50話 手のひら返しと近所付き合い


いよいよ、あと数日で美沙姉と結婚式だ。


そう思っていたら……


「和也くん……これ……」


え~と、茹でたトウモロコシと枝豆にスイカ……メロン。


それが玄関先に山ほどあった。


「どうしたの? それ」


「それが、今迄のお詫びだって、皆が持ってきたの! それに、今迄みたいに呼びつけじゃ無くて美沙様って呼ぶし……正直言って解らないよ」


もう効果が出て来たのか。


これは島田の爺さんか、伊佐治さんのおかげだな。


うちのスーパーの職員じゃ、こんなに野菜や果物を持って来ない。


「まぁ、美沙姉は今は『今泉美沙』俺の可愛い奥さんなんだから当たり前じゃないかな? 当主と言っても俺一人だけど古くからある家だし、一応は旧家だからね」


「そうか……和也くんってスーパーの社長ってイメージしかないけど、旧家でもあったんだよね。忘れていたよ。だけど美沙様ってなんだかくすぐったいな」


見事な手のひら返し。


島田のお爺さんは兎も角。


本当に『村』って凄いよな。


上下関係が案外しっかりして、上が黒って言えば白い物でも黒くなる。


美沙姉は権蔵さんの詫びとして貰ったのだから、権蔵さんが絡んでくることは無いだろう。


正一とはこの間話して話がついた。


古馬本家の使用人にも美沙姉を蔑ろにしない約束はした。


多分、村の重鎮は島田のお爺さんがどうにかしてくれる。


これで打つべき手は打った。


その成果が出始めたって事かな。


「くすぐったくても仕方ないよ。美沙姉は俺の奥さんなんだから」


「うん、そうだね。だけど、近所付き合いが始まったら、結婚式とか村でもやらないと不味くないかな?」


確かに。


今迄は結婚式をしても祝福して貰えないし、嫌な思いしかしないから村でなんて考えて無かった。


仲良くなったなら、村でも挙げる必要があるかもな。


「そうだね、帰ってきてから暫くして村でも式挙げようか?」


「そうだね、これが何かの間違えじゃ無ければ祝ってくれそうだもんね、それが良いかも」


「それじゃ、そうしよう」


「うん」


美沙姉って凄いよな。


あんな嫌な目にあっても許せるんだから。


多分、俺なら貰った作物をその場で叩きつけたかも知れない。


これから、きっと良い方に向かうよ。


だって美沙姉は本当に優しくて良い人なんだから。


後は……


◆◆◆


「お種さん!」


「ひぃ……和也様」


道端で俺の顔を見るだけで青ざめている。


少しやり過ぎたようだ。


美沙姉の為にも『恨まれる』のは良くない。


あの場所では『見せしめ』が必要だったからかなり責めた。


このまま放っておくと新たな敵になりかねない。


「そんな怖がる事無いじゃないですか?」


「和也様だとも、儂は」


「確かに美沙姉に酷い事をしたのは許せない。だけど、もう話は終わったんですからお互いにわだかまりは捨てませんか?」


「和也様がそう言うなら……」


「それじゃ、俺も言い過ぎましたから、これはお詫びです」


「これは……儂が吸っているハイライトじゃねーですか。ワンカートンも本当に良いのかい?」


「仲直りの証です。どうぞ気になさらずに貰って下さい。あとこれはお孫さんに」


ウオッチゲーマーという小型のゲーム機もお種さんに渡した。


「ゲームじゃねーですか……結構高いじゃんないですか?」


「まぁ、この前は言い過ぎましたからね、これで水に流しませんか?」


「あの……あの件は全部儂が悪い、それなのに和也様は謝るんですか」


「何事もやり過ぎは良くない……俺も言い過ぎた。その分のお詫びです」


「和也様、本当にすまなんだ……あの時、和也様の話を聞いて、自分の孫があんな目にあったらどうするか、考えてみたんだ」


「それで……」


「儂だったらきっと、鎌持って権蔵様の首を搔っ切るだ。怒って当然だ……だから和也様は気にしないでくだせぇ」


「そう、それじゃこれで仲直りって事でいいかな?」


「儂ばかりでなく孫迄気にかけてくれて、寧ろ申し訳ねぇ」


「良いんだ、それじゃ俺は用事があるから」


そう伝え、お種さんの前から立ち去った。


これで良い……少しでも美沙姉が恨まれる要因は減らさないとな。


その為ならこの位幾らでも出来るさぁ。






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