第25話 しみな村
しみな村は、本当に結束が強い。
村人とよそ者では命の重さが全く違う。
ある意味、独立国家と言えなくもない。
誰かがもし犯罪を起こしたとしても、村が本気で庇う気になれば『無かった事』になる。
幾ら証拠を出しても。
数百人以上の人間にアリバイを証明されたら、それを覆すのは難しいだろう。
例えば『村の会合に来ていただよ』と20名近い人間が証言をし、その道筋で出会った目撃証言がでたら、捕まえるのは難しいのではないだろうか。
その証拠に今回の事件は、山道をスピードを飛ばして崖から落ちた事故。
それで片付けられた。
村の駐在さんが確認して、村の診療所が死亡診断書を書く。
遺体は山犬か熊にでも食い散らかされた事にすれば、それで怪我も誤魔化せる。
これで事故じゃないと疑う事は少ないだろう。
これでも、まだ村としては優しい判断だ。
「まだ子供だから遺体くらいは返してやろう」
そう島田のお爺ちゃんが言わなければ『行方不明』で話が終わった可能性が高い。
そんな事も知らない3人の家族は遺体を引き取りに来て……
「ご迷惑を掛けてすみません」
と謝っていたらしい。
本当は殺した相手と知らずに、謝りお礼を言っていた。
「若い子だから仕方あんめぃ、この村には焼場がある、このまま持って行くのも大変だ……良ければ火葬して弔ってやってからお骨にして持っていったらどうだ」
「その方がよいんじゃないか?」
って感じに勧められ、火葬してお骨にして貰い持ち帰った。
無残な死体をそのまま持ち帰る人は少ないからな。
車の処分もこの村で行うしこれでもう殺人の証拠は何処にも無くなった。
◆◆◆
しみな村の起源は古く江戸時代から続いている。
そこから明治、大正、昭和と皆で暮してきた。
戦争中は食べ物を分け合い、醤油、味噌の貸し借りまでしていたから、ある意味、全員が家族に近い。
だからこそ結束が強い。
この村の場所にダム建設の話も持ち上がったが、全員で立ち向かい潰した歴史もある。
その分『よそ者』を嫌う傾向が強い。
だが、そんな村だが流石に過疎化も進みだしたから移住計画をうちだした時期があった。
その移住計画でこの村に来たのが紺野家。
美沙姉の家族だ。
仕事を用意して土地を無料で提供し村をあげての計画だったが……
来たのは美沙姉の一家だけだった。
本来は20件位集まる予定だったらしい。
その位の人数が集まれば、恐らく第二、第三の移住計画が進み、きっと村も変わったかも知れない。
だが、集まらなかったから……結局そのまま。
率先して意地悪はしなかったが……村人じゃないから本当の意味での仲間と紺野家はみなされなかった筈だ。
村人からよそ者とみなされる紺野家がこの地に存在するのはその為だ。
今では近隣の村人との婚姻も多いから、これでも少しは真面になった方だが、それでもやはり差別はある。
美沙姉が元からいた村人なら、きっと権蔵さんもあんな事はしない。
後妻にするにしてもあんな扱いではなくちゃんと後妻と扱った筈だ。
島田の爺さんが、あそこで飛び込んでくれたのは美沙姉の為じゃない。
俺の為だ。
今泉の当主の俺の為だ。
きっとあそこで絡まれていたのが美沙姉だけだったら見捨てた可能性は高い。
少なくとも島田の爺さんは体までは張らなかった筈だ。
もし俺が居なかったら美沙姉は見捨てられ、連れ去られたあと駐在さんに連絡そういう対応になった筈だ。
車で逃げられたら追跡も出来ないし、もし捕らえても、その時には、美沙姉は……暴力を受けたあとだ。
今、美沙姉の敵はこの村には居ないのかも知れない。
だが、本当の意味での味方も居ない。
それを忘れちゃいけない。
◆◆◆
「和也くん頭の怪我大丈夫?」
「ちょっと痛いけど、まぁ平気だよ、かすり傷だし」
「流石に和也くんが怪我しているから、朝のはやめようか?」
「美沙姉が嫌じゃ無ければ俺はしたいけど?」
「そう……それじゃ……うんっ、ぷはっ始めようか」
美沙姉とのこの楽しい生活を守るために、俺はもっと強く、美沙姉を守れるような男にならないと……
『美沙姉は両親との思い出のこの村を離れたくない』
なら、俺が美沙姉を守らないと......
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