第21話 芽瑠SIDE 指輪が戻っても戻らない


「芽瑠……本当にあれでよかったの?」


「まぁ、お前の人生だ、好きにしなさい……」


「はい……ごめんなさいお父さん、お母さん、私が全部間違っていたわ! 我儘だけど正一さんとだけは一緒になりたくないの」


本当に私はどうかしていた。


自分の事を大切にしてくれた人を裏切って、あんなバカな男を好きになって、今思えば頭が可笑しかったとしか思えない。


古馬本家をあとにした車の中でどうしようもない後悔の念に襲われた。


和也さん……本当に私は馬鹿だ。


あんなにも誠実で働き者で才能のある人を捨てようなんて……


本当に大切な物って失ってみて解るんだ……


あれ……この辺りは……そうだよ。


ここだ。


「お父さん、ちょっと車を止めて!」


「芽瑠、一体どうしたって言うんだ!」


「運転中騒いだら危ないでしょう」


「お願い」


「解かった」


この場所だ。


覚えている。


ここで、私は……


「ほら、芽瑠止めてあげたぞ! どうかしたのか?」


「芽瑠、一体どうしたって言うのよ」


「お父さん、お母さん行ってくる」


私は車から飛び出すと崖を転がるようにして川に飛び込んだ。


「芽瑠~お前、まさかやめろー死なんて選ぶんじゃない」


「なにやっているの……早くこっちへ来なさい。こんな時期に川に飛び込むなんて……」


「よく見て、お父さん、お母さん此処は浅いから」


「それなら、芽瑠お前は何をしているんだ!」


「そうよ、寒いわよ、風邪ひくから、早く上がりなさい」


私は、ここに指輪を投げ捨てたんだ……


こんな事をしても何もならないのは解っている。


だけど、和也が結婚した相手は『姉』のような人だと聞いたわ。


だったら、家政婦でも良い、愛人でも良い……傍に居て償いたい。


その為には指輪……あの指輪が必要……


「指輪……指輪を探しているの…此処に私は指輪を捨てたから」


そう、私が指輪を捨てたのはここだ。


「だとしても、指輪を探すなんて無理だ」


「こんな場所に捨てたら無理だわ、もう見つからないわ」


駄目。


あの指輪がなけりゃ私は、私は……和也に合わす顔が無い。


「私、探すから……絶対に探すから......」


「そうか、それじゃ仕方ない。母さん、私達も探すか」


「仕方がないわね……あの分じゃテコでも動かないから、仕方ないわね」



一生懸命探したけど、見つからない。


だけど、絶対に探さなきゃ……あの指輪を探して、私はもう一度和也に......


「おい、母さん、指輪ってこれじゃないかな」


「似ているわね……芽瑠これじゃないの? どう」


「そう……これ……これよ間違いない、ありがとう、お父さんお母さん、ありがとう」


「もうこれで気が済んだろう……行こう」


「そうね、風邪ひいちゃうわよ、帰りましょう」


「うん」


「それで芽瑠、その指輪どうするんだ?」


「そうよ、幾ら指輪が戻っても、和也くんとはもう無理なのよ」


「ううん、和也は『お姉さん』みたいな人と家族になる為に結婚したんでしょう……それなら、本物の夫婦じゃない。結婚なんて出来なくても良い……家政婦扱いで良いから和也の所に行くよ……あんなに愛してくれていたんだものきっと和也も許してくれるはず……」


「あのな……芽瑠、それは無い」


「そうね……それは無いな」


「なんでよ……和也は私を愛してくれていたわ」


「『くれた』芽瑠も解っているだろう……もう過去の事なんだよ。指輪が戻っても無駄だ」


「そうね……そうよ、もう諦めなさい」


「なんで、なんでよーーっ」


「良いか、残酷なようだが、もう無理だ。和也くんはお前を失った代わりに権蔵さんから『姉の様な人』と慰謝料を貰った。


「そうよ、うちは婚約破棄の慰謝料を払ったわ、和也くんは指輪代と1万円しか受け取らなかったけど、あれが多分貴方への最後の情けよ」


「違うよ……和也は私が好きだから1万円しか取らなかった……」


「それは違う! 本当に好きならお金はとらない。和也くんは確かに優しかった。お前の事を本気で好きだった。だが1万円を取ったのは『どちらが悪いか』それだけははっきりさせたかったからだ」


「それって……」


「和也くんは情けはかけた……だが、1万円だけとったのは、悪いのは私達だとはっきりする為だ」


「どう言う事……解らない、解らないよ」


「お前も正一くんにいっていたじゃないか? 覆水盆に返らず……終わったんだよ」


「そんな……」


「もう、遅いのよ……芽瑠あきらめなさい」


「いやぁぁぁぁーーー」


もうどうにもならないの……和也……


◆◆◆


家に帰ってきた。


芽瑠は部屋に引き篭もって泣いていたが静かになったから眠ったみたいだな。


「母さん、俺は言えなかったが……」


「そうね、和也くんが権蔵さんに恥をかかしても欲しかった相手だ。もう芽瑠と結ばれる未来はないだろう」


「そうね、それはおいて置いても、あそこ迄大事になったら無理ね」


「相手が友達だった時点で無理だな……私でもきっと別れる……」


「その通りだわ」


「可哀そうだが、どうしてあげる事も出来ない……きっと時間が解決してくれるさぁ」


「そうね」


母さんにも言えないが、男が最初に恋する相手は『年上のお姉さん』が多い。


きっと、美沙さんは『初恋の人』なのかもしれない。


和也くんと結ばれる未来は『あの時』しか無かった。


もう遅い、そういう事だな……

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