こちら、魔道具店スターズです!

えころけい

第1話 魔道具店スターズ

 魔道具。それは、魔力というエネルギーが存在するこの世界で発展してきた道具。

 魔力を使い何らかの効果を発揮するもの、魔力に対して何らかの影響を与えるもの。それらを包括したものを総じて魔道具と呼び、人々の助けとなってきた。

 例えば夜に薄明かりを灯す魔道具、例えば水源から水を吸い上げる魔道具。これらは暮らしを豊かにし、人類の更なる発展を促した。

 もはや魔道具は人類の生活、そして発展の歴史を語る上では外せない要素であるといえるだろう。


 大国、エルノワール王国はエルデの街北部に、そんな魔道具を取り扱う店があった。

 店の前の看板には『魔道具店スターズへようこそ! 生活に役立つものから、冒険の助けとなるものまで幅広く取り扱っております』と書かれている。

 今時、魔道具の店などさして珍しいものでもないが、この店は少々、他の魔道具店よりも特殊な店であった。

 たった今、その店に一人、皮鎧を着た男が入っていった。

 扉を開けると、りりりんっと軽快な音が鳴り、その音に続けて店内からは「いらっしゃいませ!」という少し高めの男の声と、元気の良い女の声が響いた。

 

 皮鎧の男は店内に入ると、冒険用魔道具コーナーと書かかれたスペースの棚へと向かい、色々と手にとってはそれらをまじまじと見る。

 しばらくして、男は手にひとつの魔道具を持ち、黒いケープを羽織った短い金髪の女性に声をかけた。

「お姉さんちょっといいか」

「はいっ! どうされましたか?」

 その女性は、皮鎧の男が入店した際に「いらっしゃいませ!」と挨拶した二人のうちの一人、この店の従業員であった。

「このライトボールってのは、どういうもんなんだ?」

 皮鎧の男は、手に持った黒い球体を見せて聞く。

 店員の女は琥珀色の瞳を輝かせて答えた。

 

「これはですね、携帯式の光でございます! 夜だったり、洞窟内だったり、そういった環境を冒険される方々は、道を照らすために光の魔法を使いますよね? これはその魔法の代わりとなる魔道具です!」

 女は笑顔で、「実際に起動させてみましょうか」と言って、黒い球体を男から受け取ると、左の手のひらに球体を乗せ、右手で上部についていたボタンを押した。

 すると球体は光を放ち、彼女の手のひらから浮遊し、辺りを照らす光源となった。


「どうです? 光らせっぱなしで4時間持ちますし、大気の魔力を利用して魔力チャージをするので、光らなくなっても時間が経てば再度利用可能ですよ」

「そいつは便利だな」

「そうでしょう? 辺りを照らす為だけの魔法も、長時間の使用は魔力の消費がバカにならないですからね。これがあるだけでかなり楽になると思いますよ」

「ああ、これはいい。買おう」

「やった! まいどあり! お会計はあちらのカウンターで受け付けておりますよ~」

「ああ、もう少し商品を見て回ったら向かおう」

 そう言って、男は動作を停止させたライトボールを女性から受け取った。


「ありがとうございましたー!」

 結局、皮鎧の男はライトボールを含め、計三品の魔道具を購入し、満足げな顔をして店を出ていった。

 女はそれを見送った後、笑顔で会計カウンターの奥へ向かい、そこに3つ並ぶ扉のうち、真ん中の扉を開いて部屋に入った。

「新作、売れましたよ店長!」

 そこは関係者以外立ち入り禁止の部屋。視線の先には、机に向かう黒いマントコートを着た、くせ毛で薄い青色をした髪の青年がいた。


「ああ、狙い通りだね」

 青年は、眼鏡の奥に見える赤い瞳を輝かせ、口角をあげる。

「さすがは店長の魔道具ですね!」

「まあね、そしてさすがは君の接客だ」

「へっへっへ〜、褒めても何も出ませんよぉ店長!」

「痛っ、痛いって」

 ばしばしと、女性は手のひらで青年の背を叩いた。力の調整が下手な彼女のせいで、青年は涙目になった。


「あ、ごめんなさい!」

 慌てて手を止め、青年の背中をさする。

「まったく、相変わらず君は力が強いね」

「それが私の取り柄ですからね」

「……まあ、取り柄だね」

「なーんですか、その含みのある言い方! 何か言いたい事でもあるんですか!?」

「いいや、別にぃ?」

「ぜーったいあるじゃないですか! 力が強い代わりに頭が弱いとか、思ってるんでしょう!? この、この!!」

「痛っ! 痛いって! 店長に向かって何をするんだ君は!!」


 この愉快なやり取りを繰り広げている二人について、ここで少し紹介しておこう。

 まず、金髪の女性は、名をメルト=パワーズ。この店で働く十九歳の女性だ。対する青い髪の男は、名をアルデ=ゼウロスという。年齢は二十歳で、この魔道具店スターズの店長である。

 この二人に加え、もう一人の従業員の総勢三人が、この魔道具店で働いている。

 三人共、元々同じ学園の出身で、学生時代から二人の従業員は、アルデのひとつ下の後輩として交流があった。


「ところで店長、今は何をしているんですか?」

 メルトが首を傾げてアルデに聞いた。彼の手には、キラキラと鮮やかな色を放つ鉱石があった。

「パワーリストの在庫が無くなりかけていたから、作っているんだよ」

 彼の机の上で、ひとりでに鉱石は綺麗な球となり、腕輪に嵌め込まれていく。アルデの魔道具作成魔法だ。

 簡単な魔道具であれば瞬時に作れてしまうこの魔法により、力の腕輪は量産されていく。

「は〜、いつも通りのことですけど、私には何をしているのかさっぱりです」

「魔道具作成の知識とか無いもんなぁ君は。これ、実は結構すごいことをしているんだよ?」

「店長が凄腕ってことは分かるんです。ただやってることがどう凄いのか分からないだけで」

 実際、アルデの腕はそこらの魔道具師を凌駕している。だが魔道具作成を学んだことの無いメルトには、彼の技術がどう凄いのか分からず、なんか凄そう、というやんわりとしたイメージだけを持っているのだった。


 と、そんな会話をしていると、再びりりりんっと来客を告げる音が鳴った。

「いらっしゃいませ!」

 早足でメルトが店の奥から出ていくと、そこに立っていたのは見知った顔だった。

「あ、クラウスさん」

「おう、俺だ。アルデはいるか?」

 クラウスは、買い物に来たり、特に何も買わず雑談をしに来たりと、よくこの店に顔を出す常連である。

 本日はアルデに用があるそうだ。

「店長ですか? 今在庫の補充中で――」

 メルトがそう言い終わるよりも先に、アルデが店の奥から出てきた。

「なんだクラウスか。なにか用かな?」

「おう、ちょっと話し相手になってくれよ」

「……まあいいよ、丁度作業も終わって暇になったところだ。ただ客を待っているのも退屈だからね」

 アルデはそう言って、店のカウンターの近くに椅子を持ってきて座り、カウンターに頬杖をついた。


「で、今日の話のネタは何?」

「そりゃあお前、ユスティアの話さ」

「またそれ? 好きだねぇ魔竜討伐隊の話」

「今日は特に話したいことがあるんだよ。ったく、シェディがいないのが悔やまれるぜ」

「彼は旅行中だからね、しょうがないさ」

 シェディとは、この店で働いているもう一人の従業員の名だ。彼は、よく店へ遊びに来たクラウスと、魔竜討伐隊の話題で盛り上がっている。

「それで、特に話したいことっていうのは?」

「ああ、ついさっき入ってきた知らせなんだがよ。魔竜が討伐されたんだよ」

「――え、マジ?」

 その言葉と共に、アルデは目を見開いて驚くのだった。

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