異常な強さ
「こ、この魔物は森の主ですね……討伐したんですか?」
「あっ、これが討伐証明の物です」
袋から証明に使える回収した魔物の体の一部を取り出して提出する
受付嬢が受け取り確認する
偽造する者が居る為しっかりと確認する
そして本物だと理解する
「本物で間違いないです。この魔物の素材は全て売却でしょうか?」
「はい」
「分かりました少々お待ちください」
ギルドの職員が集まり数人がかりで外の解体場に持っていく
「森の主を2人で?」
「あの子冒険者か?」
「知らない、見覚えない」
「あいつじゃ無理だろ」
「無理だ、あの少女が倒したんだろう」
「てかあの無能まだ冒険者やってたのか」
2人を見て周囲の冒険者が小声で話している
森の主は強い魔物、その魔物を2人で倒すのは難しい
ましてや片方は冒険者内で有名なクロナ
……まぁこうなるよね
クロナはこの状況になる事を理解していた、それどころか今より面倒な状況になると予想している
そしてその予想通りの事が起きてしまう
「お前らが倒したってか? 面白い冗談だ」
「冗談?」
1人の冒険者が2人に近づく
剣を持ち派手な見た目の鎧を身につけている青年
仲間は後ろで待機している
「有り得ない。東の森の主の等級は3級、3級冒険者がパーティを組んで倒す相手だ」
「実際に倒した」
「2人じゃなくて正確には1人ですが」
「はっ、どうやって? お前魔法使いだろうが強くないだろ」
「倒したのは私ではありませんから」
「は? なら尚更有り得ねぇ。そいつは魔力を持たない人間だ」
「魔力を持たない?」
少女はクロナを見る
クロナは目を逸らす
魔力を持たないと言うのはこの世界では異常
そして魔力があるのが普通の世界でそれは見下す対象とされる
その為パーティを組めずソロで活動していた
「魔法どころか魔力による身体強化もできない。そんな奴が東の森の主に勝てる訳が無い」
「だとしても倒したのは事実です」
「偶然森の主の死体でも見つけたんじゃない?」
「それなら幸運だな」
「魔力がない人間がどうやって勝つんだよ」
クロナは何も言い返さず無言で立っている
こうなる事は予想が出来ていた、黙って諦めるのを待っている
……長引いたら
静かに剣に手を掛ける
少女が必死に反論しているが聞く耳を持たない
2人は言い争っている
「有り得ない」
「事実だと言っているんです」
「証拠は?」
「あの死体と私の証言です」
「それだけでは足りない。そんな物幾らでも偽造出来る」
冒険者の中に偽造する者は居る
偶然見つけた魔物の死体を倒したと言い張る者も居るが大体そう言う嘘はバレる
「そこまで言うならむしろそっちが出来ない証拠を持ってきてください。ただの言いがかりじゃないですか!」
「言いがかりとは失敬な」
「言いがかりでしかないでしょう」
この言い争いは終わらない
森の主を倒したのは事実だがその事実を知るのはクロナと少女だけ
事実を知らない青年は魔力すら持たない劣等種が自分よりも強い訳が無いと否定したいのだ
嘘だと信じたいのだ
このまま討伐した事が認められればクロナは青年よりも強いと言う実績を得る
プライドが高いが故にそれを許せない
そして他の冒険者も事実を知らない故に森の主を倒した事を疑問に思っている
魔力無しという事は素の身体能力で倒す必要がある
彼らにはそれが出来るとは思えないのだ
「事実なのか?」
「いや有り得ないだろ。魔力を持たない、魔法を使えない人間だぞ!」
「だよな」
「でも本当にやったなら?」
「少なくともあの子の言葉は嘘には思えねぇな」
「だがどうやって倒すんだよ」
「そりゃ剣だろ」
そして青年は苛立ったのか剣を抜く
「ならこの僕と戦え! 森の主に勝ったと言うならこの僕にも勝てるだろ?」
「なっ、こんな人前で剣を抜くなんて」
「どうした、出来ないのか?」
クロナは無言で剣を抜く
……そうそう話し合いなんて無駄、うーん身体強化は掛けさせて上げようかな。流石に殺すのは駄目だろうし
少女の前に立つ
「一撃だけ相手してあげる」
「舐めやがって」
魔法を発動させる
身体強化の魔法の1つ
「フルブースト」
全身体能力強化、強化値は指定する魔法よりは低いがそれでもかなり強化される
青年の素の身体能力は高い、それに身体強化を上乗せしている
普通なら勝てない
素の身体能力には差があるがその差を埋める、突き放す事が出来る
「バフ無しで戦う気かよ」
「死ぬんじゃね?」
「フルブーストか」
「これはまずいんじゃねぇか?」
「最悪死ぬぞ」
「止めなくていいのか?」
「あれを誰か止めれるか?」
残っている受付嬢や職員は慌てている
止めようにも近付けない
青年はクロナに敵意を向けている
「嘘でしたーって言えば許してやったのにどうなっても……」
青年は勝利を確信して呑気に喋っている
青年は勘違いをしている
この戦いにルールなんて無い
開始の宣言をする審判も居ない
戦闘は剣を抜いた時点で始まっている
余裕綽々に喋っている時間は無い
魔法の発動が完了するまで待っていたのはただのクロナの善意に過ぎない
そして勝利を確信しているのは青年だけでない
周りの冒険者が視認出来ない程の速度で振るう
青年の剣に一撃を叩き込む
「し……え……」
青年の剣は少し装飾が付けられた無駄に高い剣
性能は市販品の剣より少し斬れ味と耐久性が良い、クロナの剣より良い物
そんな剣に2kg程度の鉄の塊が高速で叩き付けられる
青年の剣は砕け破片は飛び散り一部が青年の体に突き刺さる
振るわれた剣はそのままの軌道で青年の胴体に切り傷を付ける
深くは無いが浅くない、傷口から血が溢れ出す
「ぐ、ぁぁ……あ? な、にが……」
膝をつく、傷口に手を当てる
手に生暖かい液体がこびりつく
恐る恐る手のひらを見るとベッタリと血が付着している
クロナの持っていた剣も砕け散る
言葉通り一撃、その一撃で勝負がついた
例えどれだけ身体能力を強化していようが視認すら出来なければ反応は出来ない
肉体強度を高めたとしてもそれを上回る程の一撃には関係が無い
「終わり」
「あ、あのあれ大丈夫ですか?」
青年を指差す
傷口を手で押えているが隙間から血が溢れている
出血死する程血は出ていないが放置すればいずれは死に至るだろう
その前にしっかりと治療を受ければ完治するだろう
「深くは無いから治療さえ受ければ大丈夫だと思うよ。それに私は彼の望み通り戦っただけ」
「それはそうですが……」
「それに良い機会だから」
クロナは怪しげに笑みを浮かべる
その笑みを見た少女の背中にゾクリと寒気が走る
「い、良い機会?」
「そう、こんなチャンス滅多にない」
青年の仲間が駆け寄って1人が治癒の魔法を掛けている
青年の仲間の女性がクロナを睨みつける
クロナは女性を一瞥だけして無視をする
先に勝負を仕掛けてきたのは青年の方
クロナは勝負を受けただけで睨まれる筋合いは無いと思っている
クロナは受付から離れて受付嬢が戻ってくるまで待機する
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