排出率0.5パーセントのガチャを100パーセント引く彼女に勝つ方法

サイド

プロローグ

「回すなら、五秒後の方がいいよ」


 四月中旬の放課後。

 コンビニのイートインでスマートフォンと向かい合っていた俺に、不意の声が届いた。

 俺こと、市倉史也(いちくら ふみや)は、アプリのガチャ画面から顔を上げ、後ろへ振り向く。

 そこに立っていたのは、青紫のブレザーとチェックのスカートに身を包んだ細身の少女だ。

 顔も小さいが表情は淡々としており、それ以上何も言わず静かな視線を俺へ送っている。


「え、ええと?」


 状況が掴めず、オロオロしてしまった俺に少女は目を伏せ、やや冷ややかな口調で続けた。


「……よん、さん、に」


 首の半ばていどまで伸びた毛先がわずかに揺れ、小さな桜色の唇がカウントダウンを進める。

 閉じられた目元は細く、頬のラインも丸みを帯びた柔らかさを描き、一目で分かるほどに綺麗な少女だった。


「あ……え、ええ?」


 俺は驚きと戸惑いを隠せないが、少女の声は奇妙な確信に満ちていたので、再びスマートフォンへ視線を落とす。

 その画面には、「10連ガチャを回す」というアイコンが表示されており、俺は指先が震えるのを感じてしまった。


「いち」


 少女の秒読みは容赦なく進み、


「ぜろ」


 という声と共に、俺はアイコンをタップする。

 すると場面が切り替わり、広い草原と、その真ん中に巨大な樹が映し出された。

 そして背景の青空に大きな虹が架かっているのが見え、俺は思わず声を上げてしまう。


「え!? UR確定演出!?」


 ガチャ演出はキャラクターや装備のレアリティに合わせ、空が黄金色だったり、単純に灰色の雲が見えるだけだったりして、虹が架かるのは最高ランクの何かが出る時のみだ。

 樹の葉が風に吹かれて巻き上がり、画面の上から十枚、舞い降りる。

 その色でレアリティが分かるのだが、最後の一枚が虹色に輝いており、他も金色や紫色が多く、俺は目を見開いてしまった。

 一度だけ少女へ視線を向けるが、その表情に驚きはない。

 俺の脳裏にガチャの提供割合……ピックアップキャラの排出率、0.7パーセントという数字が蘇った。


「画面、見てた方がいいよ」

「あ、ああ」


 少女の淡々とした声に促され、視線を戻す。

 未取得キャラクターや装備も多く、思考が真っ白になりかけたが、問題は最後の虹色の葉だ。

 思わず、ごくりと唾を飲んでしまったが、やがて示されたのは期間限定ピックアップ、最高レアリティであるUR……ウルトラレアのキャラクターだった。


「……は?」


 今、現実で起きたことの意味が分からず、息が止まりそうに……というか、止まった。

 排出率0.7パーセントの未来を、この少女は当てて見せたという……のか?


「し、信じられない……」


 俺は呼吸が不自然に浅くなっているのを自覚しつつ再び、振り返った。


「な、なあ、今のどうやって……!?」


 しかし、そこに少女の姿はない。

 まるで、最初から誰もいなかったと錯覚させるほどの、鮮やかな立ち去りっぷりだ。

 一瞬、幽霊かとすら考えてしまったが、あのブレザーは俺と同じ高校のものだから見間違えようもない。

 しかも薄水色のリボンから判断して、同級生。

 俺は口元に右手を当てて、考える。


「探せばすぐ見つけられる……か。でもこれは、どうすればいいんだ?」


 思考の渦に飲まれ始めた俺に、URのキャラクターが元気な声で、『こんにちはっ、リーダー! わたし、頑張るからよろしくね!』と告げていた。

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