05.三大栄養素
数年前、体調が悪くなってお医者さんに診てもらった事がある。診察の結果、病気などは見つからなかった。それでは何が原因なのか?お医者さんの質問に色々と答えていった結果、説教気味に「タバコ吸い過ぎ、カフェイン採り過ぎ、酒飲み過ぎ」と言われてしまった。寝耳に水とはこの事だ。
「ニコチン」「カフェイン」「アルコール」。言わずと知れた人間の三大栄養素。人が生きていく上で欠かせないものだが、どうやら採り過ぎは良くないらしい。何事もほどほどにという事だな。
当時は朝目覚めると同時にドリップコーヒーを淹れ、コーヒー片手にタバコを立て続けに3本。会社に着いたら缶コーヒー片手にまたタバコ。以降、退社するまで隙あらば缶コーヒーとタバコのコンボを決めまくる。仕事中は減量効果が期待される濃いめの緑茶。通常の緑茶よりカフェイン多めだ。
家に帰ったら飯食って風呂入ってからの高級発泡酒(淡麗グリーンラベル)。ここで初めてノンカフェイン飲料の登場だが、それを飲み終わったらレミー・キルミスター(※1)がやってたバーボンのコーラ割り(※2)へとカフェインへの回帰。それを時間が許す限り飲み続ける。この頃は定時で帰れてたので、一日の4分の1は酔っぱらっていた気がするが、レミーがバンド結成以降数十年に渡って一度もシラフになったことがない事を考えると可愛いものだ。もちろん、飲んでる時はタバコをスパスパ吸う。
晩酌が終わったら就寝前のドリップコーヒーを飲みながら最後のタバコ。ちなみに特異体質なのか特殊能力なのか固有スキルなのか分からないが、カフェインを採っても目が冴えたりはしない。夜中に喉が渇いたら冷蔵庫の中に入ってる濃いめの緑茶。
このようにニコチンとカフェインに始まり、ニコチンとカフェインとアルコールで終わる生活をしていた。ちょっとやり過ぎていた感は否めない。
酔っぱらうのは私のライフワークみたいなものなので、酒は止めるわけにはいかない。そうなると控えるのはニコチンとカフェインになる。とりあえずカフェインを採るのを止めてみた。コーヒーを飲む量を少なくすれば、必然的にタバコを吸う機会も減るので一石二鳥だ。おかげでかなり生活習慣が改善された。
コーヒーは起床時にインスタントのカフェインレスコーヒーを一杯飲むだけ。缶コーヒーは止めた。「濃ゆい緑茶を飲み続ければ痩せる」という信仰を捨て、緑茶を麦茶に変えた。そもそも、濃ゆい緑茶を飲み続けたのにちっとも痩せなかった。こうしてほぼノンカフェイン生活へ。
タバコは起床時、食後、残業前、晩酌時に2,3本しか吸わないようにした。1日に1箱半以上吸ってたのが10本以下へと大幅減煙だ。
するとどうだろう、すぐに体調が戻った。何という的確な診断とアドバイスだ。きっとあのお医者さんはスーパードクターKに負けず劣らずの名医なのだろう。どんな病気やケガも治してくれそうだ。
体調も戻り、缶コーヒー代とたばこ代も節約出来たので良い事尽くめのようだが、カフェインを控えると困ったことが起きる。私が愛するドトールとベローチェでコーヒーが飲めなくなってしまうのだ。
ドトールは店舗によってカフェインレスコーヒーが提供されるが、残念ながら行きつけの店舗は非提供だった。ベローチェはそもそもカフェインレスコーヒーがない。由々しき事態だ。
こんなことを書いてると、心優しい読者様から「カフェインレスならスターバックスで頼めますよ」との助言がきそうなので、あらかじめ言っておこう。
田舎者はスタバが怖い。
貧乏人はスタバが怖い。
そして私は田舎者で貧乏人なので、スタバが物凄く怖い。
※注・・・以下は東京都港区のお洒落なスターバックスしか知らず、治安が良くない事で有名な神奈川県某市のドトールとベローチェを頻繁に利用していた筆者の主観を基に作成されています。筆者の歪んだ認識をお楽しみください。
まずはスタバのシステムが怖い。ドリップコーヒーの味が日によって違うのは何故なんだろう?HPには「異なるローストレベルのコーヒーを日替わりでご用意していますので、お気に入りの1杯を見つけてみませんか」なんて書いてるが、気に入った味でも次の日には別の味のコーヒーが提供されるのだから意味が分からない。もう飲めないじゃないか。
それにサイズ表記も怖い。Short・Tall・Grande・Venti。サイズ感がまったくこちらに伝わってこないし、Ventiにいたっては発音すら分からない。「S・M・L」や「レギュラー・ラージ」ではダメなのだろうか?いつだって注文時におろおろしてしまう。
もちろん、貧乏人だから値段もしっかり怖い。ドトールやベローチェのブレンドコーヒーはほっともっとののり弁程度なのに、スタバのドリップコーヒーは特のりタル弁当並みのお値段だ。その差は一体どこから生じるのだろう?フラペチーノも結構なお値段がする。執筆時点で700円。そんな大金があればベローチェで豪遊できる。それを臆せず頼める客ばかりなのだから、きっとスタバで石を投げれば富裕層に当たるはずだ。
そして一番怖いのは店内の雰囲気だ。店内を見まわしてみると、往々にして小粋なスーツを着こなしたイケてるビジネスマンがこれ見よがしにノートPCを開いて出来る男をアピールしてるし、その傍ではイケてる女子たちがフラペチーノのを飲みながらお喋りに興じてる。テラス席には優雅にお茶を楽しんでいる身なりの良いイケてる御婦人と、ご主人様のティータイムが終わるのを行儀よく待っている、トリミングされて清潔感溢れるイケてる犬がいる。と、あちらこちらでイケまくっている。ジャージを着て「実話ナックルズ」を読んでいる奴なんか一人もいない。お洒落でスマートな空気が漂っているので、私みたいな田舎者がいてはいけない場所なんじゃないかと不安になる。
そういう訳で、スタバを外すと喫茶店の選択肢はおのずとドトールかベローチェになってしまう。ドトールとベローチェの客層は親近感が湧くので居心地が良い。
読書をしている客がいたとして、スタバの客の方はノーベル文学賞を取ってそうな高尚な文学を読むのだろうが、ドトールとベローチェの方は主にスポーツ新聞や競馬新聞だ。仮に小説を読んでるとしても「餓狼伝」とか「銀河英雄伝説」だろう。もちろん「実話ナックルズ」を読んでる客もいる。
ノートPCと向き合ってるサラリーマンもいるのだが、スタバにいたイケてる彼と比べるともっさりした感じだ。向かい合って話し込んでるサラリーマンがいても、商談をしてるというよりもマルチの勧誘をしているように見える。
自分の家と喫茶店の境界線があやふやになっているのか、ジャージや寝間着っぽいのを着てコーヒーを飲んでいる人もいるし、魂が抜けたかのように虚空の一点を見つめてる客もいる。
そんな彼らに囲まれてると落ち着く。「居ていい場所に居る」という安堵を感じる。
そして居心地が良いだけでなく、加えて魅力的な食事メニューもあるからドトールとベローチェへ通うのを止められない。
ドトールはミラノサンドA。ドトールの食事メニューのエースで4番だ。生ハム、ボンレスハム、ボローニャソーセージとレタスを挟んだそれは、重過ぎず軽過ぎず、絶妙な食べ応えがある。パン系を食べたいけどハンバーガーは重いな、という時に重宝する。それとこれは個人的な経験から来るものなのだが、社畜時代の休日に朝食としてよく食べていたので、いまだに食べると当時の幸福感が蘇ってくる。休日出勤を免れる事が出来た安堵の味だ。ノスタルジックな食べ物だ。
ベローチェはツナサンド。もうこれは私の中において「ベローチェのツナサンド」という独立したジャンルだ。これも幸福な記憶と結びついている。休日に仲の良い友人や女友達と飲む約束をしてる時によく食べた。お腹が空いてきたけど約束の時間まで2時間、そんな微妙な状況の時にツナサンドが活躍する。ツナサンドをつまんでおけば、居酒屋やレストランで美味しいご飯がガツガツ喰える。以前は小腹が空いてる時に血迷って牛丼やラーメンを食べたせいで晩御飯が喉を通らなかった、という致命的なミスを犯すことがあったが、ツナサンドを知って以降、そういう失態はなくなった。
味も抜群だ。爽やかな味付けのツナ、オニオン、レタスが爽やかなハーモニーを奏でる爽やかな逸品だ。爽やかを多用したことで分かるように、一般的なマヨネーズの主張が強いツナサンドと違う「爽やかな系ツナサンド」だ。ツナなので胃にも満足感がある。
そして話はカフェインレスの件へと戻る。ミラノサンドとコーヒー、ツナサンドとコーヒーは「牡丹に蝶」。抜群に相性が良い。インドカレーとラッシー。マックのフライドポテトとコーラ。韓国式焼肉とマッコリ。ケンタッキーのチキンとビール。王将の餃子とビール。磯丸水産のカニみそ甲羅焼とビール。世界の山ちゃんの手羽先とビール。決して別々にしてはいけない組み合わせがある。いくら美味しくても、コーヒーと一緒に食べれないのでは画竜点睛を欠く。
カフェインレスコーヒーを別に用意し、テイクアウトする手もあるが、それだと店内で食べれない。椅子ぐらい座らせて欲しいし、いい歳したおっさんが街中でミラノサンドを立ち食いするのはマナー的にもビジュアル的にもアウト寄りのアウトだろう。八方塞がりだ。
この記事を読んでくれた読者の中に国会議員の方がいるならばお願いしたい。今すぐ、全ての喫茶店にカフェインレスコーヒーを提供する義務を課す法案を提出して欲しい。法案が可決されるよう、他の議員さんに根回しして頂けると尚助かる。
また、1,500億円程度の余裕資産があるお金持ちの読者がいるのなら、ドトールの運営企業である㈱ドトール・日レスホールディングスと、ベローチェの運営企業であるC-United㈱を買収して頂きたい。執筆時点の㈱ドトール・日レスホールディングスの時価総額が978億円。C-United㈱は非上場なのでいくらで買えるか分からないが、500億円もあればお釣りが出るだろう。買収したら速攻でカフェインレスコーヒーの完全提供をお願いしたい。
それでは読者の皆様に希望を託し、今日は筆を置こう。私が再びツナサンドをコーヒーと一緒に食べられる未来を実現するため、各人励んでほしい。
※1・・・米のバンド・モーターヘッドのボーカル兼ベース。年がら年中マルボロを吸い、麦茶代わりにジャックダニエルを飲んでた。「煙草は(喉の)トレーニングの一環だ」「何でみんなミネラルウォーターを飲むんだ?水は身体に悪いぞ。魚がSEXしてるんだぜ」等の名言多数。良い子が真似してはいけないタイプの偉人。
※2・・・「バーボンのコーラ割り」ではなく、正しくは「コーラのジャックダニエル割り」でした。ここに訂正し、お詫び申し上げます。
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