主人公の噛ませ犬に転生した俺、死ぬほど努力した結果最強になった

Booske

第1話

「…様、ウィ…様、ウィリアム様!」

「う……うん?」


 誰かに呼ばれ、俺は目を覚ました。いや、目を覚ましたというよりかは、視界がクリアになったと言った方が適切か。

 目の前には顔中に深いしわが刻まれた謎の執事が心配そうに俺の顔をのぞき込んでいる。

 続いて俺は周りを見回した。するとそこは俺の見知った部屋だった。


「……は?」


 周囲の光景に俺は思わず呆けた声を漏らしてしまった。

 それもそのはず、今俺がいるこの部屋は、俺の大好きなゲーム「One for All」というRPGに登場する部屋だったからだ。

 俺は自分の目が信じられず、再度周りをキョロキョロと見まわす。しかし、見慣れたその景色が変わることはなかった。


「あの、ウィリアム様。具合が悪いのですか?いきなりボーッとなされたり、キョロキョロなされていかがしましたか?」

「あ、い、いえ!何でもありません!大丈夫です!」


 老執事に声をかけられた俺は、慌てて返事を返す。

 「ウィリアム」。彼は俺のことをそう呼んでいた。

 

 「ウィリアム」はこの世界「One for All」の物語に登場する、超序盤のキャラクターだ。しかし、その役割は…だ。こいつは、主人公を操作するプレイヤー、ではなく、ゲームのストーリー進行時に流れて来るムービーの中で主人公に派手に倒されるクソ雑魚キャラだ。ネットでは、「ウィリアム」が倒されるムービーが最高に面白いとだいぶ大きく話題になっていた。


 もしかして、と思った俺は急いで姿見の前まで走っていき、自分の姿を見た。そこには俺の予想通り、見慣れた「ウィリアム・ギルバード」の姿があった。どうやら俺は「ウィリアム・ギルバード」に転生してしまったようだ。


「あの、ウィリアム様。本当に具合の方はよろしいのですか?」

「え?あ、はい。き、気にしないでください。少しボーッとしていただけですから。はははっ…」

「そうですか」


 姿見の前で再び呆然としてしまった俺に、老執事——ゼウス・シューベルクさん―—がまたもや心配そうに声をかけて来た。慌てて気にするなと答えたものの、彼は訝し気に俺を見ていた。


 気にするな、と彼には言ったものの、俺は転生、しかもよりによってあの「ウィリアム・ギルバード」に転生してしまった事実を認識したとたんに大きな絶望感が襲ってきた。

 さっきも言った通り、コイツはストーリームービーの最中に主人公に倒されてしまう、ただの噛ませ犬キャラだ。つまり…おっと、大事なことを確認するのを忘れていた。


「えっと、シューベルクさん。今日は西暦何年の何月何日でしたっけ?」

「?本日は2045年10月8日ですが?」

「あ、えっとぉ、ありがとうございます」


 ふぅ。さようなら、俺の人生。

 

 俺が確認したかった大事な事とは今日が何年の何月何日であるかだ。なぜなら、原作で「ウィリアム・ギルバード」が主人公と出会うのは2046年1月8日の入試試験日だからだ。

 つまりだ。もし、今俺がいるこの世界が原作通りに進行するなら、あとぴったり3か月後に俺は主人公と出会い、実技入試試験でぼこぼこにされるのだ。

 原作のムービーにはぼこぼこにされる場面しか映っていないが、公式ゲームブックによると、試合後に主人公にこっぴどく悪口を言われ、心を折られ薬物などの非行に走るようになってしまい、最終的には人殺しを行って実の父に斬首刑にされると書いてあった。


 この場面だけ見れば、主人公はなんて性格の悪い奴なんだ!と思う人もいるかもしれない。だが、「ウィリアム」はとんでもなく性格が悪い。自分よりも弱い奴を徹底的に痛めつけたり、女の子を無理やり自分の彼女にしたりして体を触ったり、正義感のあるものが「ウィリアム」に口答えすれば男女関係なく平気で暴力を振るう。さらにたちが悪い事に、コイツには魔法の才能があった。そのため、そこら辺の同年代の人たちじゃ、相手にならないくらいの実力を持っていたのだ。


 コイツの性格の悪さを挙げればキリがないためこの辺にしておくが、余りにも性格がひどすぎるため、「One for All」内では「キング・オブ・クソ」という、なんとも不名誉な2つ名で認知されているらしい。


 そのため、正義感の強い主人公は今までのバツとばかりに「ウィリアム」がやってきたことと同じことを仕返したのだ。


 コイツの性格の悪さがよく伝わっただろうか?

 俺はこんな最悪な人生の結末を迎えたくはない。極度のドM以外誰だってそうだろう。

 さて、みんなはこう思っただろう。だったら学園に入学しなければいいだけじゃね?ってな。しかしそれがうまいことに出来なくされている。「ウィリアム」が学園の入試試験を受けた理由は彼の父親に関係している。


 コイツの父親は「キング・オブ・クソ」と呼ばれている息子とは違い、とても紳士的でとても強い。現王国騎士団団長を務めており、皆から厚い信頼を寄せられている。その中にはこの「One for All」の王様も含まれている。

 そんな優秀な彼から生まれた息子は、もちろん父同様に才能が有り、紳士的で将来の王国騎士団団長になるだろうと誰もが期待していた。しかし実際はそんな事は無く、才能だけあるとんでもない性悪だったのだが。


 ともかく、父親からも世間からも大きく期待されている「ウィリアム」は、その期待に応えるため、などと調子に乗って入試試験を受けたのだ。逆に「ウィリアム」が入試試験を受けなかったとなると、今度は父親の面子がつぶれてしまう。そんなことにならないためにも、こいつの父親は絶対に入試を受け合格しろ、とウィリアムに指示を出したのだ。


 そのため、俺は3か月後の入試試験を必ず受けなければいけないのだ。

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