一般通過JK、天御心流セミナーを開催する④

「ほら、こんな感じ」


 そう言って、舞夜は正面に向かって拳を繰り出す。


「脱力した腕を真っ直ぐ放るイメージ。ボールを投げるみたいに腕をぽんと放るの。

 拳はゆるーく握って、手首を守るために骨だけ揃えておくんだ。

 実際に打ってみたいんだけど……」


 舞夜が参加者を見渡すと、目があったのは空手少女であった。


 空手少女は任せてくれと言わんばかりに、舞夜のもとへ歩み寄る。


「お願いしていい?」


「任せてよ、打たれ強さには自信あるから!」


 舞夜が空手少女へとミットを2枚わたして、腹筋のあたりに重ねて構えるように言う。


「え? ふたつも?」


「一応ね。1~2割で軽めに打つから大丈夫だと思うけど」


 ・1~2割ならさすがに余裕か?

 ・どうなんだろ

 ・いやいやあの舞夜ちゃんだぞ?甘く見たら◯ぬぞ


「よーし、じゃあ説明しながら打ってみるね。よく見てて」


 舞夜は普段と同じように立ったまま、構えを取ることはしなかった。


「脱力のポイントは肩から先の力を抜くこと。拳に重さを感じられるとよりいいね。

 そしたらインパクトと同時に腰を落として体重を乗せる。

 いくよ?」


 腕を大きく引くこともなく、するっと舞夜の拳が放たれる。


 鈍い音が響く。


 そして、ミット越しに受け止めた空手少女がうめき声を上げてしゃがみこんだ。


「うぐっ……。な、なにこれ。お腹の奥までズシンと響いてきた……」


 ・ミット貫通してて草

 ・やっぱだめじゃん!

 ・普通の打撃とはちがうんだろうなー

 ・ふむ、やはり起こりが見えないな


「ごめんごめんっ! あんまり浸透させるつもりなかったんだけど」


「大丈夫! 鍛えてるから! 空手の突きとはぜんぜん違う感覚が味わえてよかった!」


 ・さすが鍛えてる空手少女!タフだなw

 ・舞夜ちゃんの技と空手の違い気になる

 ・浸透してこないんじゃね?


「みんなわかったかな? 脱力の技術を使えば誰でも私と同じように打てるようになるんだよ。

 さあ、残りの時間はこの打撃の練習にあてよう! またペアになって交互に打ち合ってみてくださいっ!」


 舞夜が告げると、参加者たちはわくわくと目を輝かせながらすぐに取り組み始めた。


 誰でもできる、という言葉がみんなに響いたのだ。


「そうそういいね! あっ、肩の力をもっと抜いてみて! 腰の落とし方はこう!」


 参加者たちの間を回りながら、一人ひとり丁寧に指導していく。


 実際に体に触れたり、お手本を見せたりして改善点を示す。


 額に汗を浮かべながら、脱力感覚をものにしようと皆真剣であった。


 パンク女性と空手少女のペアも打ち合いに熱中している。


「脱力がわかってくると打撃が深く沈む気がする!」


「あー反発がない感じだな」


 二人の会話からは脱力の技術への理解を深めている様子があった。


 他の参加者たちも全員がすぐに習得できた訳では無いが、何かしらの感覚を掴むことにで成功していた。


 ・パンクお姉さんと空手少女仲良くなってて草

 ・わかるいいよな…

 ・どこみてんだよw


 残り少ない時間を惜しむように、参加者たちは打撃の練習に打ち込んでいく。


 体育館には鋭い打撃音や、掛け合いの声が飛び交っていた。


「はい、みなさん! お疲れさまでしたー!」


 舞夜の声に、参加者たちは練習の手を止める。


 全員の表情には、疲労感が残りつつもそれを感じさせないくらい充実感が満ち溢れていた。


「ほんとにみんな頑張って取り組んでくれてたね! 私も教えるのがすごい楽しかったよ!

 わずかな時間だったけど、みんなの上達ぶりには驚いちゃった」


 ・おつかれー

 ・俺も家で腕ぶんぶんしてたぞ

 ・ミスって壁殴って負傷したわ…

 ・草


「最初は難しく感じたかもしれない脱力の技術も、感覚がつかめてきたんじゃないかな?

 みんなのお陰でセミナーは大成功って言ってもいいと思う! 今日は本当にありがとうございましたっ!!」


 ペコリと頭を下げる、舞夜に参加者たちは拍手が沸き起こる。


 ・めっちゃいいセミナーだったな

 ・参加者もみんないい表情してんねー


 セミナーが終わり、参加者たちは次々と体育館をあとにしていく。


 最後まで残ってたパンク女性と空手少女が、舞夜のもとに集まり思い思いに声をかけた。


「舞夜ちゃん、今日はありがとう! 空手でも今日習ったことを活かしていけるように頑張るね」


「あのさ、最初は正直完全に信じてたわけじゃないんだけど……。もう考え方変わったよ。いい経験できたわありがと」


 ・パンクお姉さんこれ配信乗ってるの気づいてなさそう

 ・ギャップえぐいなw

 ・天御心流で空手したら対戦相手やばない

「えへへ、そう言ってもらえて嬉しいな。またこういう場を作りたいと思ってるからぜひ来てね!」


 去っていく二人の背中を見送り、舞夜は満足げに息をつく。


「リスナーのみんなも今日は見てくれてありがとう!! また次の配信で~!」


 こうして、天御心流の初めてのセミナーは幕を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る