一般通過JK、ボス部屋を発見する

 時々現れるうさぎを蹴散らしながら、舞夜は草原の奥へと足を進めていた。

 

 道中に現れるモンスターは突進うさぎばかり。


 ひたすら突進してくるだけの単純な攻撃パターン。


 探索というより、もはや散歩に近い。


「リスナーさん飽きてない? 大丈夫?」


 ・大丈夫だよ

 ・初心者向けダンジョンだしこんなもんよ

 ・そろそろ別のモンスターも出てくるはず


 舞夜がコメントに気を取られた隙を狙うかのように、茂みから青い影が現れる。


 青い影の正体はスライムだった。


 突進うさぎよりも立体的な動きを特徴としていて、不意打ちを受ける探索者も少なくない。


 サッカーボール大のスライムが舞夜の腹部をめがけて勢いよく跳ねた。


 舞夜は反射的に膝を合わせる。


 タイミングが噛み合った結果、スライムは見る影もなく弾き飛んでしまう。


「え?」


 ・瞬殺で草

 ・スライムくんの出番終わりってマ?

 ・倒した本人が困惑しててんじゃんw


「いやだってほとんど自爆じゃん!」


 ドローンに顔を寄せてコメントを眺める。


 ダンジョン突入時は5人だった同時視聴数が今は11人まで伸びていた。


 じわじわと増えていくリスナーに比例するように舞夜のテンションも上がっていた。


 当初はジョブを入手してモンスターと会敵したら、終わりにしようと思っていたのに気づけば1時間以上配信を続けている。


 ダンジョン初心者のファーストアタックにしてはダンジョン探索はかなり順調に進んでいた。


 リスナーによれば、もうしばらくしたらボス部屋にたどり着くらしい。


「ボスに挑むかどうか、みんなの意見聞かせてー!」


 ・よゆーよゆー

 ・ポーションくらい用意したほうがいいよ

 ・運動神経良さそうだし行けるんじゃね

 ・チラ見だけして決めようぜ


「ふむふむ、たしか扉の向こうに入らなきゃ襲ってこないんだよね」


 コメントの意見は分かれていた。


 楽観的な人もいれば慎重派もいる。


 舞夜はリスナーの意見を参考に、とりあえずボス部屋手前まで進むことに決めた。


 潰すものがうさぎだけからスライムに完全に移行したとき、突如目の前の空間が歪み始める。


 世界がバグったかのように草や土までもがぐにゃりと波打つ。


「なにこれ!?」


 舞夜が戸惑う中、いつの間にかその現象が終わり、古びた木製の扉でそびえ立っている。


 ・ボス部屋キター

 ・初見のときこの演出ビビるよなw

 ・ここのボスってゴブリンだっけか


 舞夜は扉に歩み寄った。


 草原の真っ只中、唐突に現れた扉。


 現実ではありえないような光景、これがボス部屋への入口だった。


 ダンジョンの最深部に位置するボス部屋は、そのダンジョンの主が待ち構える特殊な空間である。


 そして、道中のモンスターとは比べ物にならないほどの力を持っている。


「それじゃ見るだけ見てみよっか」


 コメントを見る限り、扉を開けても踏み入れなければボスからは認識されないようだった。


 ボス部屋は異なる空間にあり、当然扉の外から中へは干渉できない。


 舞夜は一呼吸おいて、扉をそーっと開いて内部を覗き込む。


 ひと目見た印象は廃墟。


 無造作に瓦礫が積み重ねられ、朽ちた空間といったところだ。


 部屋の中心には成人男性ほどの体格をした全身緑のモンスターが仁王立ちしている。


「あれがゴブリン?」


 ・レアボスだ!

 ・エリゴブじゃん!

 ・エリートゴブリン、通称エリゴブと呼ばれている。ゴブリン族の上位種族でC級ダンジョン以降のモブモンスターとして出現する。筋骨隆々な肉体から繰り出される一撃はたとえC級探索者だろうと無防備に喰らえば致命的である。

 ・詳しいやついて草

 ・つまりE級なりたての舞夜には無理ゲーってことw


「マジ? そんなに強いの? うーんどうしよっかなー」


 舞夜は腕を組んで唸った。


 C級探索者が適正のモンスターを倒せるだろうか。


 ダンジョンへ入り直せばボスはリセットされ、今度こそボスはゴブリンになるだろう。


(でもそんな常識的な行動って面白くないよね……)


 舞夜を悩ませるのは配信の撮れ高と、あまりにも弱いモンスターばかりで不完全燃焼気味であることだった。



 そうして、しばらく考えた末に舞夜はボスと戦う道を選んだ。

 

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