とある医学生の言葉【フィクション】

「諸君は今まで、…ことに循環器内科や肛門科において卓越した技術を得、また在籍中であるにも関わらず実際の処置現場…それが外科手術であれ何であれ、そこにおいて類稀なる手腕を振ってこられた。今、卒業を間近に控えた諸君に、この私・神戸帝国医大の大学長から、最後に諸君が乗り越えなければならない試練を申し渡す」


学生たちの間にささやきや溜息、そして時折オナラが聴こえた。


「それはとりもなおさず、諸君自身の便の太さを把握してほしいというものだ」


学生たちはさらに色めきたった。一人は気絶し、一人は何かを言おうとして立ち上がったまま棒立ちになり、一人は目を二度瞬かせたのち、まったく動けなくなった。


「まず、時間は指定しないので、便をしたときにその便の太さを測ってほしい。ノギスはこちらで無料配布するので、後で各自取りにくるように。そして、証拠として写メを送付してほしい。あぁ、ノギスで測っている最中の写真をね。なお、一番太い便を出した者にはトロフィーを授与するので、努力してもらいたい。

……以上、私の最後の労いの言葉とします」」


学生たちがカオスに陥った。ノギスを我先にと掴みにかかる、もしくは友人同士「今のは何だ」と夢幻かと疑う、もしくは自分の尻に手をやって「これから乗り越えねばならない『壁』」を予習した。


未だかつてこのような試練があったであろうか。否。

ここで学生の一人、村瀬十兵衛が立ち上った。


村瀬は、「医大の異端児」との異名を持つ、極めて特殊な知識と確かな技術をもった医師の卵であった。実際、成績は文字通りトップであった。が、彼はヒトの「肛門」ではなく、「尻」、あくまで性癖嗜好の対象としての尻を男女構わず目で愛でることを何よりの悦びとしており、そのため、実習中、「診る」のでなく「見る」のに時間を割いてしまい、他の実習生を訝しがらせるということがよくあった。小心者で彼女もいなかった彼は当然実際に触れる機会もなく、当然、怖さゆえに風俗にも行けず、ただ通学時や散策時、人の尻を眺めて妄想を募らせるだけだった。


村瀬が右手で作った拳を振り上げて、何かを叫ぼうとした。

学生たちは、そしてもちろん学長も、彼の発言を待った。


講堂が完全なる静寂に落ち着いたちょうどその時、彼は、こう大声で言った。
















「俺は! 誰よりも太い便を! ひり出してみせます!」

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