資料を忘れて、大変です。

 憂鬱な気持ちの中、残りの気力を振りしぼって私は出社する。午後に、取引先の会社に行った。

 あの優しいおじさまがいるところ。何となく、私はおじさまに会いたくなっていた。

「お忙しい中、時間を作っていただきありがとうございます。」

 この日は担当の方に資料を渡して、説明する日だった。

「資料をお渡しします。」

 バックから資料を出そうとしたら、見当たらなかった。


 あれ……、ない……。どこに行ったの……?

 会社に置いてきたのかもしれない……。私はパニックになった。

「大丈夫ですか?」

 担当の方が聞く。私はだんだん涙目になりながら、

「すみません、あの……資料を置いてきてしまったみたいです……。」

 やってしまった……。せっかく時間を作っていただいたのに……。怒られるのを覚悟した私に担当の社員は

「なるほど、ちなみに資料なしでも説明できそうですか?」

「はい……。大まかな説明にはなりますが……。」

「承知しました。では、資料は後日、私が御社に取りに参ります。どんな資料だったか今日は説明していただくだけで十分ですよ。誰にでもミスはありますから、気を落とさないで。いつも浅田さんにはお世話になっておりますので。」

「かしこまりました。ありがとうございます!」


 予想に反して許してくれたことで、最後のありがとうございますが元気すぎた。うちの課長だったらネチネチ怒るんだけどなぁ……。

 寛容ないい会社なんだと思った。そして、担当の方と話が終わった。


 私は部屋を出たが、部屋の中で担当の人と誰かが喋っている声が聞こえた。しかし、何を話しているかは分からなかった。

「……。」

 そのまま会社を出た。今日は掃除のおじさまに会わなかった。

 何でだろう、いつの間にかおじさまに会えるのを期待している自分がいた。


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