私の仕事が増えました。
そして、どんどん私の受け持つ仕事は増えていった。
いつしか、4日連続で終電の時間まで会社にいて残業する時もあった。
課長から
「最近、残業多いねぇ。まぁ、頑張ってね。」と言われた。
優しい……。やはり上司だから部下を気にかけてくれたんだな。
これを励みに仕事をした。
でも、この仕事を捌けなくて困っている。
できれば残業はしたくない。早く帰りたいが仕事が終わらない。
先輩に聞こうとしても忙しそうだったり、先輩同士で談笑していて私が入る隙がないように見えた。
一度、先輩たちが喋っているときに話せる話題だったので割って入ったが、皆ムッとして、
「そうね。」と冷たい一言で過ぎ去っていったことがあったっけ……。
誰にも頼れない、仕事が終わらない。
先輩は定時で上がれているから、私の能力が低いのだろう。
もっと頑張らなきゃ。もっと……。
そんな中、私は課長に呼ばれた。
「浅田さん、ちょっと来て。」
私は、課長のデスクに向かった。そして、課長から
「ここの数字間違ってるよ。これで4回目だよ。」
営業の報告書の数字を打ち間違えてしまった。しかも、これで4回目だった。課長は呆れながら怒った。先輩たちは冷ややかな目でこちらを見ている。
「すみません、すぐに修正します。」
「気をつけてよね、もう独り立ちしてるんだからさ、頼むよ。」
「はい、申し訳ございません。」
ここ最近、寝不足で不注意が多くなった。
そんな中、私は取引先の会社に行く用事があり、仕事を済ませた。そして、会社を出ようとすると、廊下の角で男の人と鉢合わせした。
「あ、すみません。」
「あ、ごめんなさ……、あれ? ハンカチ落とした子だったかな?」
鉢合わせしたのはあの時の優しい掃除のおじさまだった。
「はい、先日はありがとうございます。ただ、確認したら、私のハンカチじゃなかったんです。」
そう、あの時拾ってくれたハンカチは私のものじゃなかった。
すぐに確認せずに帰ってしまった私も悪かったが、帰社したときに気づいた。私は取引先の会社に来て、すぐに受付の人にハンカチを渡した。
受付の人は笑顔で「かしこまりました、では、こちらで確認いたしますね。」と言ってくれた。
「あ、そうだった? ごめんね、違う人の渡しちゃったね。」
「いえ、いいんです。」
「ところで、最近、仕事はどうだい?」
「どんどん仕事を任せてもらえるようになって、もっと頑張らなきゃって思います。」
「そうか……。無理しないでね。辞めたらいけないよ?」
「はい。辞めないです。」
「仕事のことじゃないよ?人間でいることを辞めたらいけないからね。」
「は、はあ……。」
私の中で少しひっかかりはあったが、取引先の会社を後にした。
「そろそろかな……。」
後ろでそんな声が聞こえたが、気のせいかもしれない。
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