第9話 和解
随分と寒い日が続いてきたが、雪はまだ降らないようだ。
老人が訪ねてきた日から一ヶ月ほど経ったが、あの日を境に二人の間にはなんとも微妙な空気が流れている。
また家の扉がドンドン、と鳴った。
すかさずリリーナを後ろに守る形で、応答するハオルド。
余程、リリーナの身が心配なのだろう。
「誰だ?」
「あ、えーっと、ルークと言います。リ、リリーナに会いたくて…その…」
ルークという名前を聞いた途端、リリーナはハオルドの背中から素早く飛び出て扉を開けた。
「ルーク!ルークじゃないか!」
「リリーナ!無事だったか!ずっと帰ってこないからどうしたものかと…」
親しげに話す二人を見て、ハオルドは無性に居心地が悪くなり「畑へ行ってくる」とだけ言い、家を出ていった。
ハオルドは夕方になっても帰って来なかった。
リリーナは心配になり、山をおり村へ行くことにした。
するとある村人に話し掛けられた。
「もしや…あんたがハオルドの嫁さんかい?」
「えっ?!いや、ちが…」
次々と村人たちが家から出てきて、あっという間にリリーナの周りを囲んだ。
「いやぁ、俺たちずっとハオルドにお礼が言いたかったんだ。盗賊が襲ってきた時にすぐ山を下りてきてそいつらを追い返してくれてな。その上、食糧やら木材やら全員の家に配ってくれて…。本当は良い奴だってみんな分かってんだ。でも今更どの面下げて話せばいいのか分からなくってよ。ハオルドに会いに行っても良いか聞いてくれないか?」
申し訳なさそうに村人たちが口々に、ハオルドの話をしている。
「奥さんってのはあんたかい?何ヶ月か前からハオルドの家からえらいべっぴんな女の子が出入りしてるってんで話が持ち切りだったんだよ。堅物そうに見えてやっぱり男の子なんだねぇ」
リリーナが反論する間もなく村人たちに話し掛けられる。
すると遠くの方からリリーナの名前を呼ぶハオルドの声が聞こえた。
「お!ちょうど良かった!みんな!ハオルドが来たぞ!」
全速力で走って来たのだろう。
激しく肩を上下に揺らして、息切れしている。
普段、ハオルドが村におりることはほとんどなく、盗賊たちを追い払ったぶりであった。
今度はハオルドが村人たちに囲まれた。
「ハオルド…今まで悪かったよ。あの時の食糧と木材のおかげで村もほぼ元通りになった。あの時助けてくれなかったら俺たちどうなってたか…。本当に感謝してるんだ、ありがとう」
みな次から次へとハオルドに、感謝と謝罪を述べている。
ハオルドは照れくさそうにして笑っていた。
リリーナは初めて見るハオルドの表情で、老人の言葉を思い出していた。
『人と関わりたい、孤独から逃げたい』のだと…。
「あの可愛い奥さんのおかげで、最近いびきがマシなのかもしれないわねぇ」
少し離れた場所で話している村人の声が聞こえた。
リリーナは、ハオルドの奥さんという響きがむず痒くもあり心地良く感じていた。
その夜、ハオルドとリリーナは村の長主催の宴に招かれ酒をたらふく飲まされた。
ハオルドはあの巨体だ、まだ足りないくらいだろう。
リリーナの方は少し酔っているようだ。
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