第4話 薬草と大男の情報

山奥の家の中で、薬草についてお互いに知っている情報を交換した。

そこで二人が気付いたことはいくつかの情報が一致しており、あながち噂話ではないのかもしれないということだった。

二人は根拠のない期待に胸が膨らんだ。

と、同時に噂話どころではない嘘くさそうなものももちろんあった。


1.その薬草は多くの栄養素を必要とすること

2.雪の中に埋まるように咲くということ

ここまではいい。

問題は次の二点である。

3.新鮮な愛が最大の肥料となること

4.薬草を摘むに相応しい代償が必要となること


「あんた、どれが一番気になる?」


「そうだな…この村の土は栄養素が高いうえ、真冬には雪もどっさり降る。この二つの条件は満たしているだろう。」


「………」


「………」


しばらく沈黙が流れ、我慢出来ずリリーナが笑いだした。


「愛が肥料ってどういうことだ?おとぎ話でもあるまいし」


ハオルドは硬い表情を崩さない。


「噂話もおとぎ話も大して変わらんだろう。真心込めて育てろという事じゃないか?」


「あんた、見かけによらず純粋なんだねぇ」


「何が言いたい」


「この愛ってのは、愛し合う者同士の愛情が必要ってことなんじゃないか?」


「…お前の方こそ、白馬の王子が存在するとでも思っていそうだな」


「……?!なに?!」


「この村では毎年春になると永遠の愛を誓う儀式を行うしきたりがある」


「おい!先にそれを言え!真心云々よりきっとその儀式に関係してるだろ!」


「そうだ。だから儀式を終えた者たちに育てさせるとして。…だがな……」


ハオルドの表情は一層険しくなった。


「何か問題でもあるのか?」


「…何年か前からこの村で子供が生まれることがなくなった。みな悩み、薬草を探した者もいたらしいが今や若者もおらず、新たに結ばれる者もいない。俺も実際には儀式を見たことがない」


「疫病かなんかの類か?…確かにこの村で子供は見なかったな…。あんたが一番若そうだ」


「あぁ、俺は成人を過ぎた頃から歳をとっていない。子供が出来ないのは疫病なのか何かの呪いか…うーん、わからん」


ハオルドは腕組みをして考える。


「今、なんて…?あんた歳をとらないって本当か?それこそ呪いだろうよ」


リリーナは疑い深げに言った。


「まぁ信じ難いだろうな。こう見えても、とうに80年以上は生きている。気味悪がられる前に村を転々としていたら、たまたまこの村の薬草のことを知ったんだ」


リリーナはますます疑い目でハオルドを見る。


「じゃああんたはその不老を治すために薬草を?」


「いや…。いびきだ」


「なに?ふざけているのか?」


「今夜分かる。それより、この新鮮な愛と薬草を摘む代償とやらだ」


リリーナはしばらく考え込んだあと、色々と諦めた様子でこう言った。


「まったく、頭がおかしくなりそうだよ。そもそも、この村はあとどれ位で雪が降るんだ?」


「冬はもう越えてしまった。後1年ほどかかるだろうな」


「そんなにかかるのか?!その間にも私の村の疫病は…」


「…分かっている。夜が明けたら畑で落ち合おう。まずは育ててみるしかないだろう」


「落ち合うって、あんたどこか出かけるのか?」


「言ったろう、今夜分かると。この家は好きに使ってくれて構わない」


そう言ってハオルドはまだ何か言いたげなリリーナを横目に家を出ていった。

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