第10話 油断
「き、聞きたいことってなぁ、な、何だよ? こ、ことと次第によっちゃ答えてやってやらんこともねぇぞ!」
サーティーンにタクティカルリボルバーを突きつけられながらも、ギドはありったけの気合いで恐怖を押し殺して虚勢を張る。
それは、この近隣でもそれなりに恐れられるロードギャングを率いてきたボスとしての矜持であり、何よりこのような場面で弱腰の姿勢を見せては付け込まれるだけでということをよく理解する、長年のアウトロー経験から導き出した最適解だった。
もっとも、それはあくまでもギドにとっての最適解ではあっても、サーティーンにとっては不正解だった。
「あれれぇ? 口の利き方がなってねぇなぁ」
そう言うや否や、サーティーンは銃口を下に向けてギドの右足の太ももを撃ち抜いた。
「ギャーッ!? テ、テメェ!」
傷口を押さえて尻餅をつくギドに、サーティーンは出来の悪い生徒に注意する教師のような調子で言い放つ。
「お聞きしたいことは何ですか? 喜んで何でも答えさせていただきます。だろう?」
「ふ、ふざけ……っ!」
再び銃声が轟き、口ごたえしようとしたギドの左足の太ももにも風穴が空く。
「ガアァッ! お、お聞きしたいことは何ですか!? よ、喜んで何でも答えさせていただきますぅっ!」
両足を撃ち抜かれる激痛は、ギドのプライドを根こそぎへし折るには十分だった。
「この不潔でむさっ苦しい髭オヤジに何でもお聞きください、が抜けてるんじゃない?」
サーティーンの背後からヒョコッと顔を覗かせるセブンが、屈託のない笑顔でそう言った。
「だとよ?」
「こ、この不潔でむさっ苦しい髭オヤジに何でもお聞きくださいぃっ!」
もはや恥も外聞もなく、ギドは涙目になりながら声を張り上げる。
「はい。よくできました。さて、茶番はこれくらいにして、色々と答えてもらおうか」
手下を皆殺しにした上、自分の両足を躊躇いなく撃ち抜いておきながら、それを茶番と言い放つサーティーンに、ギドはハラワタが煮え繰り返りそうになる。
だが、在らん限りの自制心を振り絞って堪えると、媚びへつらうような笑顔を作った。
「へ、へい。な、何でも聞いてくだせぇ」
反撃のチャンスは必ず来る。それまで耐えろ。自分にそう言い聞かせながら。
「素直でよろしい。それじゃあまず、ここはどこだ? お前さっき「このクソッタレな星」とかって言ったよな? つまりこの世界はどっかの惑星って認識で合ってるか?」
こんな学の欠片も無さそうな無法者でも、世界イコール惑星と認識する程度には科学的な知識が浸透している世界なのかを確認するための質問だった。
「へ? へ、へい。そ、その通りでさぁ」
サーティーンとセブンの特殊極まる事情など知る由もないギドは、何を当然のことを、と思わず口にしそうになるのをどうにか堪えて首肯する。
「ふむふむ。この星の名前は?」
「お、俺達は『バース』って呼んでまさぁ」
「「バース?」」
聞いたことがない、とサーティーンとセブンは首をかしげる。
『Neo Eden』の舞台となった惑星は、ゲームでは『第17開拓惑星』と無機質な名称で呼ばれていた。先ほどの『天恵』と合わせて『バース』という単語は初耳だった。
疑問は尽きないが、サーティーンはひとまず尋問を続ける。
「『地球』もしくは『惑星開拓計画』、この単語に聞き覚えはあるか?」
「ち、地球ってのはアンタ……あ、いや、あなた達『冷凍者』や、俺達のご先祖の故郷の星で、こ、この星を開拓する惑星開拓計画のためにやってきたって聞いてやす」
「さっきから出てくる、その『冷凍者』ってなんなの?」
「それは……。あ、あれを見てくだせぇっ」
セブンの質問に答える代わりに唐突に空を指さすギドに対し、フェイスガードの奥で目を据わらせたサーティーンは、その横っ面にリボルバーの銃口をグリグリと押し付けた。
「テメェ、この期に及んで俺らがンなアホな手に引っかかるとでも思ってんのか! あんま舐めたマネしてると、マジで脳天に風穴空けんぞゴラァ!」
「ち、違うんす! マジなんです! マジでアレを見てくださいぃっ!」
涙目になって懇願するギドに、サーティーンとセブンは渋々と空を見上げる。
そこには、どこか船舶を想起させる人工物が、真昼に見上げる月のようにうっすらと目に飛び込んできた。
「あれって、もしかして『アーク号』?」
セブンは、『Neo Eden』で開拓惑星にプレイヤーを輸送してきた宇宙船の名前を口にする。
「あ、あれはそういう名前なんで? 俺達は箱舟って呼んでますぜ。なんでもあれは、惑星開拓計画増員の冷凍者と追加の物資を乗せて、二百年だか三百年だかくらい前にこの星にやってきたって話で」
ギドの口から飛び出したこの発言に、サーティーンとセブンは揃って目を剥いた。
「はぁっ!?」
「三百年前ェ!?」
「へ、へい。箱舟にはものすげぇ量の物資が残されていて、ソイツがたまに降ってくる事があるんでっ。俺達はそれを天からの恵み『天恵』って呼んでるんですが、その中には氷漬けの人間が入ったポッドもあって、そういう連中は『冷凍者』って呼ばれてるんでさぁっ」
突きつけられる銃口の硬い感触に怯えて必死にまくし立てるギドをよそに、サーティーンとセブンは大いに困惑していた。
『バース』というこの星の名称は聞き慣れないものだったが、ギドが地球を知っていたことと『アーク号』らしき宇宙船が存在していることから、ここはやはり『Neo Eden』と同じ開拓惑星だったかと確信しかけていたところに、アーク号がこの星にたどり着いたのがはるか三百年の昔という衝撃情報が飛び込んできたのだから無理もない。
「どうするサーティーン。三百年前だって」
「いや、どうするったって。どうしようか」
情報整理が追いつかなくなったサーティーンとセブンは、ギドのことも忘れて顔を見合わせる。
(今だッ!)
二人の注意が逸れたと見るや、ギドはすかさず傍らに転がる自分のリボルバーを拾い上げ、サーティーンの胸ぐら目掛けてぶっ放した。
銃声が鳴り響くと同時に、サーティーンの胸元で激しく火花が散った。
「がはっ!」
胴体に被弾の衝撃を受け、サーティーンは思わず二歩三歩と後ずさりする。
「サーティーン!?」
セブンの叫び声がやけに間近で聞こえたのと同時に、サーティーンはそのまま背中から倒れ込んでいくのだった。
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