第5話 安宿
総合商業施設で弾薬等の各種消費アイテムを補充し、酒とつまみ類も購入した二人は、裏通りにてひっそりと営む安宿『スターダスト』に場所を移して宴を開始した。
「「かんぱーいっ!」」
客室に備え付けのテーブルにつまみの食料アイテムを数点並べ、サーティーンとセブンは金属製のコップをぶつけ合う。
甲高い音を立てるコップに並々と注がれたケミカルな色合いをした液体が、トプンと揺れた。
この星では造酒に使える果実や穀物は発見されておらず、代替品として造られた化学薬品による代用アルコール、という設定の食料アイテムである。
二人は、味覚エンジンによって表現された「炭酸の抜けた薬の風味が強めのコーク」といった風情の液体を煽る。
「っぷぁー! おいしー! 仕事終えた後の一杯は格別だよねっ」
一息にコップを干したセブンが、陽気な声を上げる。
「オヤジ臭えぞ、セブン」
サーティーンは相棒の残念女子っぷりに苦笑しながら、小皿に盛られた炒った虫を口に運ぶ。
見た目こそバッタかイナゴの姿焼きだが、スパイスの利いた味付けは甘い酒によく合った。
地球とは異なる惑星という世界観を表現するため、『Neo Eden』ではこの手のゲテモノ食料アイテムがよく登場する。
ゲームを始めた当初こそそれらを忌避していたサーティーンだが、今はもう慣れたもので素直にその味付けを楽しんでいた。
「うっさいなー。ほっといてよーっだ」
可愛らしく舌を出し、セブンはコップにお代わりを注ぐ。
外見年齢は十代半ば程の少女が豪快に酒を煽る姿は倫理的にも、医学見地からも眉をひそめられそうなものだが、それをとがめるほどサーティーンも殊勝かつ無粋なタチではない。
そんな野暮な価値観の持ち主だったら、そもそもこんなバイオレンスなゲームなどやっていないだろう。
「それにしても今回は、トレイン作戦がばっちり決まったよね」
「だな。見ものだったぜ、連中の慌てた面は」
いかに高レベルかつレア装備で完全武装したトッププレイヤーと言えど、それだけで多勢に無勢を簡単に覆せるほど『Neo Eden』は生易しくデザインされていない。
時には、サーティーンとセブンが慣行したような、鎧蟲の群れを誘引し、それを擦り付けて攪乱させるモンスタートレイン作戦を思いつくような悪知恵も、この殺伐としたゲームを勝ち抜くための重要な要素だった。
新ライフルの使い心地の感想やヘルズバイパー討伐の講評を肴に、サーティーンとセブンは酒を干していく。
首都の裏通りに佇む安宿の一室から漏れ出る明かりは、いつまでも消えることはなかった。
◎◉◎
其処は幾千幾万幾億の
「思考」と「試行」が無限に循環する
幾度にも渡る「思考」の果てに、新たな「試行」が開始される。
無数の「0」と「1」から取捨選択が行われ、選び抜かれた「0」と「1」は複雑に混じり合い、やがて二つに纏まり「男」と「女」の形を成していく。
まるでアダムとイブのように「0」と「1」の楽園から放逐された男女は、彼らと同じ道を辿るかの様に地上へと降り立っていくのだった。
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