猫猫熊猫(にゃんにゃんぱんだ)

中村まきこ

第1話 プロローグ

「目が覚めたようじゃの?」

 え? 目の前には神様のような人がいる。神様のようなと思ったのは、法衣を着ていて、長くて立派な白い髭を生やし、あたまはつるっぱげで、右手に木でできた杖を持っていたからだ。こんな人現実ではお寺ぐらいにしかいないし、神様としか思えないでしょう。おまけに暗闇の中で老人からは仏様みたいに後光がさしている。

「どこなんですここ? 夢ですか? 宝くじの当選番号とか教えてくれちゃったりするんですか!?」

「ふぉ、ふぉ、ふぉ、死んだというのに元気な娘じゃわい」

 あごひげをなでながら、にこにこと笑う神様。わたし死んじゃったんだ……ということはここは天国なのか?

「お主は並行世界というものがあることを知っておるかな?」

「へいこうせかい? なんだか昔マンガでよんだような……」

「ま、簡単に言えばもう一つの地球みたいな星があるのじゃよ。宇宙は一つではないからの」

「へぇ、そうなんですか。そこが天国なんですか?」

「違う違う、お主が転移してしまう先じゃよ。文明のレベルは1000年以上は遅れておるかのぉ」

 なにそれ、めちゃくちゃ不便じゃない。

「なんでそんな世界に転移してしまうんですか? あ、マンガといえば、こういうときはチートスキルをもらったり、ハーレムを築いたりするんですよね」

「残念じゃったな。お主に渡すのはこの着ぐるみだけじゃ」

 ふわふわと空中にただよっているのは白黒のパジャマのようなパーカーだ。

「こんな服一枚で異世界転移なんて酷すぎますよ!」

「何をいうか、これは宝貝ぱおぺいと言う仙人のありがたーい道具じゃ」

「そうなんだ」

「お主にはこれを着てもう一つの世界に散らばった宝貝を集めて欲しいのじゃ」

「えーーーっ、なんでそんなめんどくさい役目をしないといけないんですか?」

「それは、お主に宝貝を使いこなす素質があるからじゃ」

「そういえば思い出してきた。わたし、元にいた地球でいじめられて……」

「そう、行きすぎたいじめで殺されたんじゃ。その元気な魂は本来のもので、地球でのそなたは暗い少女じゃったよ」

「そういえば友達もいなくて、一人でゲームばかりしていたのよね……」

 胸が苦しい。どす黒い感情が溢れ出してきそうだ。

「そして、おぬしの次の魂の行き先がそのゲームの世界だったとしたら?」

 神様の言葉で少し落ち着いた。心が清められるっていうか、変な感じ。だけど、悪い気分じゃない。

「え? もう一つの世界ってゲームの世界なの?」

「ふふふ、その通りじゃ。これにはゲームをやり込んだそなたほどの適任者はおらん。無事宝貝を見つけて来たら蘇らせてやるだけでなく、どんな願いも一つだけ叶えてやろう」

「まじですか!? どんな願いでもか……復讐に願いを使うのはもったいないし、大金持ちにしてもらうか、超イケメンの彼氏をもらうか……迷っちゃうなぁ!!」

「やる気は十分のようじゃな。しかし旅先には、お主のクラスメイトの魂を使った悪い者もおる。また、宝貝はその力から異次元へと繋がるゲートに封印されていることも多い、心して宝貝探しの旅を頼んだぞー」

 だんだんと暗くなる視界。なんだか急に胡散臭い神様だったなぁと思う。騙されたんじゃなかろうかとも思うが、まあ、死んでしまった以上抵抗してもしかたがない。わたしは案外そういうところでクールな女なのだ。そうか、ゲームの世界に飛ばされるのか。楽しみだなぁ。なら前向きにゲームの異世界を楽しもう。ただ、元の世界のクラスメイトとは会いたくないなぁ。まぁ、今悩んでも仕方ないか。知識無双とかできるのかなぁ。って、ゲームってなんのゲームか聞いてなかった。怖いやつじゃないといいなぁ。


「すーすー」


「おい、熊猫ぱんだ娘! こんな所でなにをしている!?」

「ふぇ?」

 寝ぼけながら起き上がるとわたしは全身白黒の着ぐるみを着ていた。不審者に思われるのも仕方がない。

「ふぁああ、神様の使いですか?」

「ははは! 奴隷商人に向かって神様の使いとはな! そんなこと生まれて初めて言われたぞ」

 馬車には檻がついていて、一人の美しい少女が閉じ込められていた。

「あなた、悪いやつね!」

「おまえも売り捌いてやるぜ、綺麗な若い女は高く売れるからな」

 奴隷商人のムチが空中をしなる。だけれど、わたしにはとってもスローに見えた。ゆっくりすぎて欠伸がでちゃう。着ぐるみの片手で鞭を捕まえるとそのまま相手を空中に吹き飛ばしてしまった。ものすごい力だ。なによ、チートアイテムじゃない。

「な、なに!?」

「この娘はわたしがもらっていくわ」

「な、なんだとぉっ?」

「ああ、奴隷商人を泣かせるのって楽しいわね!」

 奴隷商人の尻を蹴り飛ばし、ぐいぐいと鋼鉄の檻を折り曲げて、少女に手を伸ばす。

「ぱんださん、ありがとうございます」

 と言って、黒髪の少女はわたしの手をとった。ぱんださん?

 どういうことだ? 抵抗する奴隷商人をさらに蹴り飛ばし、河原に映る自分の姿を見てびっくりした。なんと自分が全身ぱんだの着ぐるみを着ていたからだ。

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