記憶喪失1日目-2
「か、帰っちゃダメですかね?一旦で大丈夫なんで。一瞬でいいんで。一秒、もう一秒だけでいいんで帰らせてください。」
私は大混乱していた。いや、そもそも私ではないのか?でもこの考えは私だからたとえ肉体が私じゃなかったとしても私と言えるのか?それはもう事実私ということでいいのではないか?…これが哲学か…?
「異世界転生」
というワード自体は聞いたことがある。だが、こういうのはあくまでも、見たことある作品に突然転生した!みたいなことではないのか?
生憎私はこの間ス〇イム転生のアニメを少し見たくらいで、そういう作品は何も知らない。こんなのあんまりだ。
しかも体の人間の記憶と同化したからなんとか生き延びれそう♡特殊スキルあります♡みたいなのが鉄板なのではないのか?
さらに最悪なのが目の前の男は私のことを明らかに嫌っているということ。
…これって一貫の終わりなのでは。
「帰るだと?お前が婚約者なんだから体裁を考えてエスコートしろと言っておいて?相変わらず自分勝手だな。不愉快だ。」
そう言うとさも不愉快そうな顔を浮かべてこちらを一瞥した。
…なるほど?どうやらこの男と私は婚約関係にあるが、あくまでも家柄同士仕方なく、みたいなことなのか?めちゃくちゃ腹が立つ態度だが、もう少し探りを入れてみるか。
「…でもまさか本当に来るとは思わなくて。ほら、私たちってあまり仲が良いとは言えないじゃない?あくまでも家同士の約束の婚約ってだけだし?」
私にも好意はないということが分かれば少しは友好的にもなるはずだ。これは有効な一手だったのではないだろうか、友好なだけに。
すると、彼は様子が変わり、本当に怒っているような表情を浮かべて言った。
「冗談だろ?お前が俺と婚約したいと公爵閣下に無理を言って婚約させたくせに何を言ってるんだ?俺にはもう心に決めた女がいるのに!」
「え!?うっそ!最低じゃん!!!」
反射的に叫んでしまった。相手も驚いているようだ。
「おい、お前なんか様子がおかしいぞ…」
こんな関係だったとなると、情報収集が頓挫しかねない。ここは素直に状況を説明するか…?
だが、違う世界からやってきました!オッパッピー!なんて言ったところで誰が信じるだろうか?ここは事実と嘘を織り交ぜて話した方がいいだろう。
「なんて言えばいいかな…えーっと…そうだ、婚約を破棄しよう!約束する!契約書巻いてもいいよ!だから、ちょっとお願いがあるんだけれども」
またまた驚いた顔をしている。今日だけで半生分は驚いているんじゃないだろうかこの男。
「信じてもらってももらえなくてもどっちにしても婚約は破棄すると約束するから、聞いてほしいんだけど。どうやら……」
「どうやら…?」
初めてちゃんと話を聞く気になったかのような顔で聞いている。よっぽど婚約破棄という言葉が大きなワードになっているらしい。
とはいえ、伝える側もナーバスになる。信用してもらえなくて婚約破棄だけして何も教えてもらえないのが最悪のケースだ。
意を決して…聞くしかない。
「その…記憶喪失みたいでして。私って誰?ちなみにあなたも誰?ついでに言うとココハドコ?ワタシハダレ?」
まさか、こんな昭和の記憶喪失みたいな表現を本当に使う時が来るとは思ってもみなかった。
神よ、私のGWを返して…。
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