傭兵国家の転生者。親愛なる家族に愚かと呼ばれる日々に不満なし。

五鼠人

ゴミ共殲滅任務

第1話 作戦開始

通信魔術に応答する。

同胞どうほう、こちら『エマグリーンファミリー』、オペレータ『執事もどき』です」

「よう同胞、こちら『闇影やみかげ斥候団』、オペレータ『闇影のダン』だ」

「『闇影のダン』、こちらは準備ポイントにて待機中、用件をどうぞ」

「『執事もどき』、ああ見えた見えた。いつも通りの格好だな。お茶会中に失礼」

『闇影のダン』さんは笑いを堪えながら軽口を入れる。


『闇影斥候団』は今回斥候役を担っているパーティだ。

斥候役が必要な任務の際には、合同で受けることが多いので仲は良い方と思う。

パーティネーム通り、所属者全員斥候士である。初めて耳にした時は正気を疑った。

以前、『闇影斥候団』団長の『闇影のカーチス』さんに

「なんでこんな尖ったパーティ作ったんですか?」と聞いてみた。

「なんかかっこいいから」とのことだった。

人生楽しんでるなぁと思った。

「暗殺士も混ぜるともっと格好良くないですか?」と提案したら

「お前は何もわかっていない」と言われた。

斥候士だけで構成することに意味があるんだろうな。

でも嫌いではない。むしろ好ましさを感じる。

前世の記憶にあるMMORPGっぽくて。

ちなみに『闇影斥候団』、23名所属者がいる。中規模パーティを名乗れる人数。

斥候士に大人気である。

全員、コードネームは『闇影の〇〇』で統一だそうだ。

そんな傭兵人生を楽しんでいる闇影斥候団、今回23名全員参加。

今回のようなゴミ共殲滅任務では、とてもありがたい存在である。

斥候のプロ、斥候士。それが23名いるのだ。ゴミ一匹逃さないだろう。


「要件だが、全パーティ所定の位置に付いた。作戦に変更なし。花形だ、派手にやってくれ」

「承知しました。楽しいゴミ掃除にしましょう。ではまた同胞」

「ああ、またな同胞」

通信魔術を切る。

「作戦に変更なし、派手にやってくれとのことです」

我がパーティのお三方に内容を簡潔に伝える。

親友様は1度頷いて、懐中時計を確認した。

「作戦開始30分前。最終確認。」

「承知しました。飲み物のお代わりは?」


「愚弟、コーヒーをちょうだぁい」

姉君様あねぎみさまは僕のことを愚弟と呼ぶ。愚かなる弟。事実である。

間延びした声で穏やかな笑顔。弧を描くエメラルドグリーンの瞳。

薄ピンク色の髪を肩まで伸ばし、装いは革のシングルジャケット。

インナーは緑のシャツ。革のパンツに、革のブーツ。

インナー以外黒革である。

前世の記憶に当てはめれば、ロックバンドのお姉さん。

僕が作りました。

胸部のボタンが止まらなくなったと言われたので、今度新調する予定。


「愚兄、紅茶をお代わりしますの」

妹様いもうとさまは僕のことを愚兄と呼ぶ。愚かなる兄。事実である。

似非お嬢様言葉で澄まし顔。つり目の瞳はオーシャンブルー。

お顔の左右に金髪縦ロール、装いは、黒を基調としたフリルドレス。

各所のフリルの先とレースは全て緑で拵えている。

前世の記憶に当てはめれば、縦ロールも相まって悪役令嬢。

僕が作りました。普通のドレスを改造しただけだけど。

今度は同じタイプを赤基調で新調する予定。


「愚友、オレンジジュース」

親友様は僕のことを愚友と呼ぶ。愚かなる友。事実である。

目元まで覆ったローブのフード下に見える、

白い肌に白い髪。ちらりと見える深紅の瞳が映える顔は無表情。

ぶかぶかの黒ローブの袖口と裾先に緑のラインを飾っている。

前世の記憶に当てはめれば、森に住んでそうな魔女。

僕が作りました。

あと2着新調する予定。


「承知しました」

左手を胸に添え一礼する、お三方から愚かと呼ばれる愚かなる僕。事実である。

顎ほどまで伸びた黒髪を後ろで縛り、黒い瞳を遮るものは無し。

装いは、執事服っぽい何か。

お三方より頂戴した黒の執事服を、お三方の意見で改造した結果である。

ベストは深緑の生地にかわり、背広の裏地も深緑。袖口、裾先は緑のライン。

パンツの裾先もラインが入り、胸元には緑の石があしらわれたループタイ。

執事服の洗練された雰囲気をぶち壊したデザインとなり、

よって『執事もどき』となった。


お三方に飲み物を配り終わる。

客観的に見てみよう。

笑顔でコーヒーの香りを楽しむ姉君様。

優雅に紅茶を口元に運ぶ妹様。

オレンジジュースで喉を潤す親友様。

傍らに佇む執事っぽい何か。

『闇影のダン』さんの言った事に違いない。まさにお茶会中である。


「任務概要を。愚友」

親友様は説明を僕に一任する。

今回の任務は隣国より依頼されたゴミ共の殲滅任務である。

ゴミ共=通称、盗賊。あ、逆だ。盗賊=通称、ゴミ共。

襲う、奪う、攫う、犯す、売る、殺すしか行えないゴミの集まり。

人でなし、畜生以下、害虫より害がある。この世に必要ない存在。つまりゴミ共。

死んでその土地の養分になることだけが、ゴミ共にできる善行だ。

我が国家では『賊と付く輩は駆除せよ』と国家法に記載されている。

そして我が国家に属する者は『是非もなし』が共通認識。

なので、隣国からゴミ共の殲滅依頼が来たら喜び勇んで受ける。

報酬も高いしね。ゴミ共を掃除するだけで割のいい報酬。

抽選方式でパーティを選ぶほど人気ぶり。

ちなみに、常設任務でもゴミ共の駆除任務がある。

ただし狩りと同じで、ゴミ共の巣を見つけるところなので少し面倒ではある。

殲滅任務になると巣は見つけてある。あとは掃除するだけ。

今回は僕達を含め3パーティで役割を決めての殲滅任務。


斥候役 『闇影斥候団』

現地観察にて地形地理、人数、ゴミ共の逃走経路などの把握。

任務実行時には監視に従事し、状況によっては逃走したゴミを駆除する。

殲滅役 『エマグリーンファミリー』

斥候役の情報をもとに吶喊し殲滅する。任務の花形役である。

残党狩り役 『血と臓物のスープ』

事前斥候役からの逃走経路をもとに人員を配置。巣から逃げてきたゴミ共を狩る。


どの役回りも、ゴミ共を殲滅するのに必須である。

今回のゴミ共の巣は洞窟である。

『闇影斥候団』が5つの逃走経路の内、3つを定刻に爆破。

それを合図に『エマグリーンファミリー』が突入。

洞窟前と残りの逃走経路2つの計3ヵ所に『血と臓物のスープ』が配置される。

さらに周辺を囲うように『闇影斥候団』が目を光らせる。


要約し、任務概要を説明する。

お三方も既に把握している。作戦開始前の儀式みたいなものかな。

「次いで、作戦指示」

ここからは作戦立案者の親友様が引き継ぐ。

「アイリス、合図と共に吶喊」

「了解したわぁ」

姉君様は剣技士であり、パーティの前衛役を担う。


「イルミナ、残ったゴミ共の処理」

「承りましたですの」

妹様は魔術士であり、パーティの後衛役を担う。


「僕は要救助者の捜索及び保護」

親友様はパーティの頭脳担当であり、暗殺士である。

隠密を得意とするため、今回は救助役も行う。


「愚友、いつも通り」

「委細、承知しました」

いつも通り。臨機応変である。

姉君様より劣る剣技。妹様より劣る魔術。親友様より劣る頭脳と能力。

よって僕のパーティではサポート役である。

以前、誰かに聞かれたな。「不満はないのか?」って。

不満などあるはずがない。親愛なる家族のサポートなのだ。

姉君様、妹様、親友様の為ならば、何でもする所存だ。

日常でも任務中でも同じこと。

それに剣技も魔術もほかの能力も伸び悩んでいる。

そういう所も、お三方は僕を呼ぶとき”愚”を付ける一因だろうか。


それはさておき、ほかのパーティが聞いたらおおざっぱな指示と思うだろう。

ゴミ共相手に細かな作戦など必要ない。

4人で構成する『エマグリーンファミリー』。名前の通り家族なのだ。

互いのことはよくよく知っている。

役が割り振られれば、各々適切に行動する。


「作戦開始5分前、各員最終準備」

姉君様はロングソードを腰から抜き払う。

妹様は己が背丈を超える杖を持ち、先を地につける。

親友様は袖口にしまわれたナイフを1本取り出す。

僕はバックパックを背負い、ショートソードを右手に。鞘を左手に。

鞘は錯乱した救助者を気絶させるために持つ。


事が始まる前に、お三方の表情が徐々に変わる。

普段、穏やかな笑みを浮かべる姉君様。

普段、すまし顔の妹様。

普段、無表情の親友様。

そんな普段のお顔から、変質する。

前世の記憶に当てはめれば、いや、当てはめなくてもよいだろう。

悪人が笑う顔である。邪悪な笑顔である。

そんな顔のお三方も、素敵だ。


僕は懐中時計をじっと見る。

3分前…2分前…1分前…3…2…懐中時計を仕舞い、爆発音。

「作戦開始!」

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