御機嫌如何
横瀬 笙
第1話ナミリの動画
ナミリの動画を見たのは魔が差したとしかいいようがない。
窓から東海大相模のクリーム色の校舎が見えるアパートの部屋、壁を隠す四つの本棚には隙間なく本が詰め込まれ、入りきらない本は床に積み上げられている。それだけでも二、三百冊はあるだろう。
本棚の前には、炬燵と小さなベットがあり、ベットの上には、若い全裸の女が膝を立てて仰向けに寝ている。ポコポコという音をたてながら、女に近づくビデオカメラ(昔のカメラなもので) どういうわけか女は、畳んだ青いバンダナで目隠しをされている。
カメラは、立てた膝の間の奥を狙って拡大中。
気配で気づいたようで、
「えぇっ。うそぉ。まじぃぃ」かなり、はっきりした口調。
「はずかしぃ」これは消え入りそうな小さな声。
若い女は、右足を折り曲げて左足の太ももに重ねて股間を隠そうとするが、撮影者の手が出てきて、ゆっくり右足を開かせ、そして左足も開かせる。
「いやぁぁ」笑いながら
「はずかしいぃ」
若い女は、両足を開いた姿勢のまま両手で顔を覆い、すこし目隠しのバンダナをずらす。バンダナと両手の隙間から、撮影者をそっと見たようだ。
「撮ってる」ちょっと非難混じりの強い口調。でもアップにした口元は笑っている。
女の頬は真っ赤で、とても恥ずかしがっていることがわかる。アップのまま、あごの下のホクロ、かわいらしい乳房、柔らかそうな腹さらに陰毛、足まで映すカメラ。
真っ白な肌と黒い陰毛のコントラストが、いやらしい。
女は、つま先でカメラを蹴ろうとする。
「はいぶんやるじゃん」(何回聞きなおしても、こう言っている。意味不明)
「いま、アップで撮ってた」(撮影者には意味が通じているみたいで、答えている)
「何を」
「足」
女は足を伸ばし、そして左足の膝を立てる。
両腕を頭の下に入れて顔を少しあげた。
「えっ」「えっ」「えっ」何か聞きなおしている。
「ナミリ、ポーズとって」聞き取れないけど、多分言ってる。
仰向けに寝て足を伸ばしてカメラを見つめる女。
「ポーズ、わかんない。いやらしい」
「いやらしいこと頼まないでよ」
ナミリは体を横向きにする。
顔をアップにするとバンダナを下げて目を隠す。
カメラが足の方を映すと、またカメラを蹴ろうとする。
また顔をアップにすると、今度はバンダナを上げて目を見せて
「ほんとに、いやらしい」と言った。
横向きに寝ているナミリ。
白く細い指が、そっとお腹を撫でながら黒い股間の方にすべっていく。
指は陰毛のあたりを撫ではじめた。
自発的にするはずがないから「オナニーして。まねでいいから」と指示されている。
仰向けに姿勢を変えたナミリ、陰毛を撫で続けている。
しばらく白く細い指が黒い陰毛を撫で続けた。
でも、ついに恥ずかしさが限界を超えたみたいで、起き上がり斜めに座った。
そしてカメラを見て顔を横に向けた。
顔をアップにするカメラ。
軽くウエーブのかかった肩まである髪をかき上げて、カメラを見るナミリ。
白い肌、二重瞼の大きな目、頬は赤く上気している。
ぷくっとした頬には幼さが残っている。
この顔が本当に好きだった。何が好きだったか聞かれたら顔と即答すると思う。
さらに顔をアップで映すカメラ。
ナミリは少しうつむき加減になって前髪を触る。
ナミリには前髪に対する強いこだわりがあり額を出した顔は見せたくないみたい。
これからシャワー浴びるから、そのままでいいんじゃないと思う時でも、必ずドライヤーで直す。前髪で、おでこを隠してない顔を見られたくないらしい。
「ヘンタイ」
カメラに向かって呟いたナミリ、四つん這いになって体を伸ばして、炬燵の上のタコ焼きをつまんで食べる。腹のあたりが薄く細い体を真横から撮るカメラ。
そういえば、なんで目隠しのバンダナをしていたのか思い出した。ナミリは、自分の胸が、かわいらしいことを非常に苦にしており、自分はかっこいい人とは付き合えない。なぜなら胸が小さいから、きっと嫌われて捨てられる。街で胸が小さい人を見ると友だちだと思う。雛形あきこが大嫌いと言ってた。
そしていつか豊胸手術をするとも言ってた。 その細い体で体脂肪率も低いだろうに、顔・スタイルともに、ほぼ完ぺきだから、コンプレックスが、ちょっとだけかわいらしい胸に集中するのかなと思いながら、豊胸手術が始まってから、まだ一世代経ってない、豊胸した時はよくても、将来何が起こるか分からない。よく分かってない中に入れたシリコンが固まったり、生理食塩水のパックが破れたということも聞いたことがある。もう少し、大人になれば考えも変わるんじゃない。体つきも、もっと変わってくるだろうしと反対すると、あなたは胸がない悩みを分かってないと、すごく怒られたことがある。
かわいらしい胸を見られるのも嫌で、真っ暗なところじゃないと裸になりたくないとも言ってた。ミスチルのOverの歌詞「顔のわりに小さな胸や」も気にしていた。確かに日向まこタイプの体つきなんだとは思うけどね。
ここから少し論理の飛躍があるのだが、自分が目隠しをすれば明るいところでも裸になれると言う。見ている方でなく、見られている自分が目隠しすれば良いという理屈は分かりかねるところもあるけど、ナミリがそれでいいなら、それでいいんじゃないという流れで目隠ししていたのである。そういえばエッチするために、二人でデパートでアイマスク探したな。旅行用品売り場にあるんだけど、気がつかなかった。
目隠し!どんなヘンタイ・プレイさせているのか、ヘンタイ・ドスケベ野郎と思ったかもしれませんが、真相はこういうことで私は無実です。
ナミリは、もぐもぐ小さく可愛らしい口を動かしながら、お茶を飲んで四つん這いの体を丸めて布団の中に逃げ込んだ。カメラの方を見て、にこにこ笑っている。すかさず撮影者の手が布団を剥がしてカメラをお尻の方に回り込ませる。体の細さとは不釣り合いとも思えるくらい大きく丸いお尻が映る。お尻の左の上には大きなホクロがある。
「こんないやらしい人、見たことない。あたし。はっきり言って」
”はっきり言って”は、かなり早口。
ほとほと、お前にはあきれたぞ!あきれはてたぞ!
このヘンタイ・ドスケベ野郎!と言いたいみたい。
そう言うと、ナミリはカメラに頬を寄せ、チュッとキスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます