地球最後の日に

月夜アカツキ

第1話

 ピピピピピ

「う、うーーん」

 朝の到来を告げる目覚まし時計の音にボクはゆっくりと体を起こす。

 目覚まし時計を止め、まだ眠たい目をこすりながらカーテンを開けると、朝日が部屋中に広がる。

 そのままの足でキッチンへと向かい、昨日作って鍋に入ったままのカレーを温めなおす。

 その間にお米をレンジで温めて、出来上がったカレーをかけて食卓に置く。

「いただきます」

 誰が聞く人がいるというわけでもないのにそう言ってしまうのは僕が日本人だからだろうか。

 そんなことを考えながらテレビをつける。

 まだ午前8時だというのに、どのチャンネルも今は再放送しかやっていない。

 それもそうだ。世界最後の日にわざわざ頑張って働こうだなんて人はいう人は一部の仕事が生きがいという人くらいだろう。

 その再放送も僕が興味があるものではなかったから、仕方なくスマホで動画を検索する。

 一人暮らしというものはどうしても自分以外の人の声を求めるものだと思う。

 お勧めに出てくる動画はほとんど『死ぬ前に○○やってみた』というものばかり。

 死ぬ前にやることと言ったら人の迷惑になるようなものが多そうだけど、意外なほどにそう言った動画は少ない。

 今更犯罪者を捕まえようとする警察も少ないのに、人っていうのは法が機能していようとしていまいとある程度の道徳心を持っているものなのかもしれない。

 とはいえ僕はそんな動画には興味がないので、適当にゲーム実況でも流しながらカレーを食べ進める。

「ごちそうさまでした」

 食べ終わったら食器をきれいに洗い、歯を磨いて顔を洗う。

 人が働かなくなってもなお、こうして水道も電気も使えるのは高度に発展した技術力があってのことだ。

 まぁ、その技術力がこんな世界をつくってしまったわけだけど。

 皮肉なものだ。この技術をつくった人だってまさか戦争で使われるようになるだなんて思いもよらなかっただろうに。

 なんて考えながら服を着替え、外に出る。

 空は一面の青空。

 数年前に終わった第四次世界大戦の影響で人類は地球そのものを破壊した。

 あと数年で滅びることが確実視された人類はもはや戦争をしている場合ではないということで、世界中の政府が話し合った結果地球全土を巨大な仮想空間のようにして平和な世界に見せかけようということになった。

 要するに崩壊した世界を見ないようにして少しでも恐怖を和らげようというわけだ。

 ばかげた何の解決にもならない手段だと思う。

 もちろん何人かの金持ちが宇宙への脱出を試みた。だけど支援物資も届かないなかでの未開の宇宙への旅。案の定、地球との通信は途絶えて、生死不明となってしまった。

 なんでも、戦争前の本物の青空が広がっていた時代の一年間の平均的な天気を映し出しているらしい。

 この空だって本当に青いわけじゃない。

 きっとこの向こう側には荒廃した空が広がっているんだろう。

 僕はもうほとんど住んでいる人がいないアパートの階段を下りて、とりあえず街中に向かう。

 本来高校2年生である僕は今日は学校に通わなくてはならない。

 だけど地球最後の日に学校なんてあるはずもない。というかもうずっと前からない。

 昔にも地球が滅亡するという予言で世間が騒いだことがあるみたいだけど、今回は科学的にも証明された確実に起こる滅亡。

 世界中を代表する科学者たちが何日間も議論して出されたその結論は、最初は疑う人も当然いたけど、各地で起こる天変地異は人々にそれを信じさせるには十分すぎる物だった。

 それでも、信じない人は一部いるわけで、こうして街中を歩いているだけでも『政府は嘘をついている』という張り紙や演説をたくさん見かける。

 僕は正直なところ半信半疑ではあるけど、まぁ滅亡しないならしないで構わない。

 街中についた。

 周りには最後の時を家族や友人と過ごそうとしてる人であふれかえっている。

 僕の場合は・・・来ただけで特に予定があるわけじゃない。

 僕の家族は戦争で死んでしまった。一人暮らしをしていたから、最後に会ったのは中学校の卒業式の時だ。

 友人はおのおの好きなことをしに行った。

 ある友人は家族と過ごしているし、またある友人は世界を旅するとか言ってどこかに行った。中には絶望して自殺を選ぶ友人もいた。

 なんにせよ。僕は今手持無沙汰だ。

 なにか最後にやりたいこと。やり残したこと。

 なにをしようかと考えていると、ふと僕と同じようにやることがなさそうに一人スマホを眺めている女の子が目に留まる。

 ふんわりとした白いワンピースからのぞく白い肌。

 背中まで伸びた亜麻色の髪の毛から、整った鼻筋にクルリとした小動物を思わせる瞳、形の良い唇がのぞく。お世辞抜きにかわいいと思える。

 誰かを待ってるのかとも思ったけど、暇そうな顔をしてずっとスマホから目を話していないその姿は誰かを待っているようには見えない。

 おおかた僕と同じように予定もなく街まで来たのかもしれない。

 そうだ。ナンパしよう。

 別に深い意味はない。というか何の意味もない。

 我ながらばかげているとは思いながら僕は女の子に近づく。

「どうも、君今暇?」

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