掴むぜビッグマネー！～金持ち共の慈善事業がリアルマネーを稼げるVRMMOだと？～

序 紙屑ほどの価値もない人生

「やっぱり、当選したか……」

　届けられたＶＲＭＭＯＲＰＧ『トレジャーワールド２』のソフトを見て、俺……東條　葵（とうじょう　あおい）は、皮肉な笑いを浮かべた。

　審査の段階で調べれば解るだろう。

　両親と姉を交通事故で奪われ、天涯孤独になった。この春、大学を中退した二十歳の派遣社員。犯人が国会議員の息子か何かで、保険金も罰金も値切られた。

　いかにも、やつらの好みそうな身の上だろう？

　国民の貧富の差が、タワマンの最上階と地下街の段ボールハウスくらいに開いてしまった今の日本。

　金持ち連中が【慈善事業】と称して始めたのが、『トレジャーワールド』という名のＶＲオンラインゲームだ。

　スタート所持金、５万円で放り込まれるゲーム世界。プレイヤーがそこで得た金や、使った金は、全てリアルマネーとして、登録口座でリアルタイムでやり取りされる。或る者はモンスターを倒し、或る者は武器を製作し、ひたすら金を稼ぎまくる。

　金持ち連中がそこに投じた金額は、募金と同じ扱いで無税なのだとか。

　税金対策と、貧乏人共が足掻く姿をリアリティ番組として、編集し眺めて楽しむ。

　悪趣味だと思うが、こっちも大金を掴むチャンスだ。

　ゲームでプレイヤーキャラが死ねば、そこでおしまい。

　プレイヤーキラーはもちろん、犯罪行為は厳禁。やろうものなら、自分の所持金が相手に乗せられた上で、ゲームから弾き出される。銀行口座の全額が、だ。

　前作の勝利者は、数十億円を無税で受け取ったらしい。

　他にも、協力キャラクターたちも同額を。とどめを刺した時の装備を作ったプレイヤーにも、かなりの額が支払われたと聞く。

　つまりは、そんな一攫千金を狙える世界。

　派遣仕事やバイトでこき使われた上、食べていくのにも苦労する額をもらって嬉しいか？

　真面目にコツコツやったって、この２１世紀の日本では、一生浮かび上がれない。

　だったら、ゲームの駒にでも、競馬の馬にでもなってやる。

　ビッグマネーを掴むことを信じて、俺はレンタルのＶＲユニットにソフトを走らせた。