フィルター

蒼開襟

第1話 ビールと

わいわい賑わう居酒屋の店内。

各々が手にグラスを持ち楽しんでいる。


間に合わせで参加していた睦原むつはらかじかは隣に座っている友人メイを睨んだ。


『もう・・・こんなのごめんだからね。』


小さな声で叱咤するとメイが片手で拝む。


『わかってる。ごめんって。』


テーブルの上には所狭しと食事が並べられている。


かじかの前に座っている宮崎という男はこの中ではリーダーらしく皿に取り分けている。


『睦原さんもなにか取る?』


ふと声をかけられて、かじかは首を横に振る。


『いいえ、ありがとうございます。』


数時間前に少しだけ食事をしたせいで飲み物だけで精一杯だ。

終電前には帰りたいところだけど、結構盛り上がっている彼らに水を差したくなくてタイミングを計っている。


それにしても大学生というのはこうして酒が入るとこうも楽しそうなのか・・・。


かじかは断って席を立つとお手洗いに向かう。

用を済ませて席に戻ろうとした時、店の入り口が開いて見たことのある男が入ってきた。


『遅いじゃん。葉月。』


そう言われて葉月優雨はづきゆうは整った顔で笑ってみせる。


大学でも有名な生徒。

カメラで賞を取っていて、雑誌で見るような容姿のせいか女生徒から熱い視線を寄せられている。


かじかは紛れるように席に戻ると目の前に座った葉月に軽く会釈した。


『あー。こちら睦原さん。メイちゃんが連れてきてくれてね?』

『ども。』


葉月は軽く会釈してから隣に座った女と話し始める。


見た感じチャラい葉月は好意を持っているであろう隣の女に愛想笑いで話している、どうやら苦手のようだ。


かじかは目の前に置かれたビールのグラスを見つめて、とりあえずこれが空になったらお暇しよう、と一人頷いて手を伸ばした。

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