第一章  発端 5





 バスの最後部座席一列を占拠したのは、案の健一たち一派たちだった。

 ボスの健一、子分の剛志のほかに、同時期に入部した齋藤隆介、同好会一年の陣内雄作、同じく鈴原大夢の五人だ。


 雄作と大夢はボスの健一に影響され、最近とにかく素行が悪くなっていた。

 変わり種なのは、齋藤隆介だった。

 特に健一に影響されることもなく、かといって鈴か夕香に興味があるような素振りもない。


 活動には真面目に参加するが、とりわけ熱心なわけでもなくどこか掴みどころがない。

 なぜ一年前に、同好会に入部して来たのか不明だった。


 学業成績は常に学年でトップ5に入っている秀才で、どちらかといえば文化部が似合いそうな青年だ。

 そのくせ運動神経がよく、正式なテニス部でもレギュラーになれそうだった。


 普段無口なのだが、いざとなれば相当な論客ぶりを披露する。

 基本的に、頭の回転が速いのだろう。

 力の健一と、頭の隆介というコンビは最強であった。




「ケンちゃん、なんで夕香に対してあんなに弱気なんだよ。あれじゃ周りに示しがつかないぜ、もうちょっとピリッとしてくれよ」

 情けなさそうに剛志が、健一に頼み込む。


「うるせえな、俺がどうしようとお前には関係ねえ。いいか、夕香に手出したらお前でもボコボコにするぞ」

 健一に一喝されて、剛志が首を竦める。


「ツヨポン、野暮なこと言うな。ケンちゃんは夕香に惚れてるんだよ、だからどんなにぞんざいに扱われても怒らなのさ。男はそうでなくっちゃ、ねえケンちゃん」

 真面目な顔で雄介が言う。

 顔つきは真面目なのだが、その実揶揄われているのが健一には分かっている。


「だ、黙ってろ隆ちゃん・・・」

 顔を真っ赤にして、健一が黙り込む。

 彼が〝ちゃん〟づけで人を呼ぶのは珍しい。


 ほかには三年生で学校の副番格の新井薫と、この地域の高校を牛耳っていると噂の、R工業高校の一条寅雄くらいなものだ。

 どちらも中学時代に、タイマン勝負をした仲らしい。

 その両方に、歳下の健一が勝ったと言われている。

 そんな健一が〝隆ちゃん〟と呼ぶのだから、隆介というのは侮れない所があるのだろう。



 鈴と夕香は、前から四列目のシートに座っていた。

 夕香はさっそくポーチからカルピスウォーターを取り出し、ごくごくと飲んでいる。


「いまからそんなに飲んでちゃ、トイレが大変だよ。このバストイレ付きじゃないんだから」

 鈴が心配そうに見詰めている。


「あはは、そんときゃその辺に止めてもらって、道端にでもしちゃうからいいの」

 屈託なく、夕香が笑い飛ばす。


「もう、夕香ったら」

 呆れ顔の鈴も、苦笑いする。

 夕香ならば、本当にそうしかねない。


「ねえねえ夕香、さっきみたいな事して怖くないの。岡部くんって学校一のワルじゃん、なにかされたら大変だよ」

 前のシートの田中朱里が、後ろ向きになって話しかけて来る。


「そんなことないよ、あんな態度とってるけど根はやさしい子なんだ。絶対に女子には手を出したりしない、みんなあいつの事誤解してるんだよ」

 夕香が必死に弁護する。


「ふうーん、そうかな? やっぱわたしは怖いな」

 朱里には、夕香の言葉が信じられないようであった。

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