たこ焼き屋の安須美ちゃん。

猫野 尻尾

第1話:たこ焼き屋「えっちゃん」

僕の家は商店街の端っこにあってクリーニング屋を営んでる。

母親が店番をして父親はサラリーマン。

妹がませた中学生の四人家族。


で、僕の名前は「大野 翔平おおの しょうへい」社会人、25歳。


僕には密かに思いを寄せてる女性がいる。


それは商店街の中ほどにある、たこ焼き屋「えっちゃん」の孫娘。


「安須美ちゃん・・・中里 安須美なかざと あずみ


「えっちゃん」はずっと悦子えつこおばあちゃんがたこ焼きを焼いていた

んだけど数年前から体調がすぐれないっていうので、今は孫娘の「安須美ちゃん」

がたこ焼きを、せっせと焼いている。

安須美ちゃんちは悦子おばあちゃんと二人家族。


実は安須美ちゃんは僕より二つ年下で同じ高校を卒業した。

幼馴染というほどの付き合いはなかったけど、下校時顔を合わすと一緒に

帰ったりしていた。

だから自然と安須美ちゃんのことが好きになった。

高校時代は結局、自分の想いを安須美ちゃんに告白できないまま終わった。


だから今でも僕の安須美ちゃんへの想いはくすぶったまま。

だから、時々たこ焼きを買いに行くついでに安須美ちゃんの顔を見に行く。


「えっちゃん」のたこ焼きは変わっていて、たこ焼きの上にタコウインナーが

乗ってる「タコ星人たこ焼き 」

これが美味いんだよ。


以前は安須美ちゃんは勤めに出ていたから、ほとんど会えなかったけど

今は、ずっとたこ焼き屋を焼いてるから、いつでも会おうと思えば

えっちゃんに足を運べばいい。


僕は安須美ちゃんに気持ちを告白できないまま、もう何年うじうじして

るんだろう?

ためらってないで好きだって言えばいいのに・・・。


このままじゃ、安須美ちゃんのことが好きだって男が現れて持って行かれる

かもしれない。

それは僕にとってはめちゃ惨めでジェラシーなことだ。


なんとか付き合えるきっかけが欲しい。


そんなある日、妹がたこ焼きが食べたいって言うんもんだから、だから

兄ちゃんがおごってやるからって妹を連れてえっちゃんにたこ焼きを

買いに行った。


「こんちわ」


「あ、翔平さん・・・佑月ゆずきちゃんも・・・いらっしゃい」


「タコ星人たこ焼き、ふたパック」


「はい、少々お待ち下さい」


「あのさ、お兄ちゃん・・・お兄ちゃんずっと安須美姉ちゃんのこと好き

なんでしょ?」

「なんで好きって言わないの?」

「好きなら告りなよ」

「プラトニックなんて、今時めっちゃダサいからね」


「え?・・・なに言い出すんだよ・・・やめろって」

「あはは、ごめん・・・聞かなかったことにしてくれる、今の・・・」


僕はめっちゃ恥ずかしかった。


安須美ちゃんは、クスッと笑っただけでなにも言わなかった。

でも、はっきり安須美ちゃんには伝わっただろう・・・僕の気持ち。

これがきっかけなのかも・・・。


で、僕はほぼ衝動的に安須美ちゃんを誘っていた。


「安須美ちゃん、店があるから昼間は無理かもしれないけど・・・」

「晩ご飯とか・・・用事がなかったらだけど一緒に食べに行かない?

かな・・・」


ダメ元だ。


「いつ?今晩?」

「今晩でもいいし・・・安須美ちゃんがいいって思う日でもいいし」


「そう・・・じゃ今晩でいい?」


「うん」


おお、行ったね〜ごめんって言われるかと思ったけど・・・ラッキー。


「安須美ちゃん、なにか食べたいものある?」


「焼き肉!!」


「あ〜フランス料理とかイタリアンじゃないんだ・・・焼き肉か」


焼き肉は意外な答えだった。

でも女の子は焼き肉好きだからな〜。


で、たこ焼き屋が店じまいして僕は安須美ちゃんと焼き肉を食べに行った。

もちろんゆ佑月ゆづきも一緒・・・でかした妹にもお礼をしなきゃな。

ふたりだけのデートとはいなかなったけど、それで僕は満足。


聞くところによると安須美ちゃんも僕のことを学生時代から密かに想って

いてくれてたらしい。

本当に?・・・そんなこともっと早くに知ってたら・・・。

こんなに告白するのに長くはかからなかったのに。


でもよかった・・・手遅れにならなくて・・・。


長年くすぶっていた安須美ちゃんへの想いがようやく実を結びそうだ。

妹の言葉がなかったら、きっとたこ焼きだけ買って帰ってただろうな。


佑月ゆずきに感謝だな。

今日のこの日のために妹は生まれてきたんだよ、きっと。


おしまい。


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たこ焼き屋の安須美ちゃん。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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