第2話 オークス 2024

「先輩、ヴィクトリアマイルめっちゃ荒れましたね!」


 背後から掛けられる後輩の声に振り返る。

 単勝208倍のテンハッピーローズの差し切り勝ち。加えて津村騎手のG1初勝利。


 穴党の私ですら到底買える馬ではない。

 ただ今後のために補足しておくと高速馬場での穴馬は2パターンある。


 前残りでバテない馬。

 距離延長で速いペースに慣れてる馬。

 どちらも内枠が望ましい。


 私は前者でスターニングローズと踏んだが、

後者のテンハッピーローズだった。このパターンは雨ダートや時計の速い馬場で往々にして出現するため、覚えておいて損はないだろう。


「スターニングローズ全然でしたね!」


 ギクッ!

 後輩が嬉しそうに言う。

 俺は理論を説明しようとしたが、どうせ何を言っても無駄だと開き直った。


「……まあ、テンハッピーローズじゃあ、どっちにしても当てれんよ……」


「たしかに津村騎手のG1初勝利でしたからね! 21年目ですって」


 うるせーよ。

 どうせお前は津村と菱田と丹内の区別がつかないだろ! もっと言うと丸山、丸田。角田兄弟、木幡兄弟、鮫島兄弟の区別もつかないだろ?



 ちなみに買えるのは河、巧、克な!



 私の悪い癖だが、

 私は競馬の知識のない人間を見下す傾向がある。

 勿論、人望はない。



 屈託のない笑顔で後輩が続けた。


「今週のオークスはどうですかね? 堅そうに見えますけど……、やっぱり先輩は穴馬から入りますか?」 



「ステレンボッシュが抜けた一番人気か……」


 気の抜けたような返事を返したが、こんな俺にでも話しかけてくれる後輩を愛おしく思った。


 競馬の相談なら全力で応じる。

 私は悪い人間ではない。

 むしろ人のために役に立ちたい人間なのだ。

 後輩よ。君のためにひと肌脱ごうじゃないか!

 そして、一緒に的中しようではないか!

 


 ステレンボッシュ

 能力的に本命候補なのは間違いないだろう。

 ただし、外人→戸崎

 これを見逃してはならない。

 最重要事項である。


 高速馬場で直線の長い東京。

 加えて初長距離の3歳牝馬。

 距離不安を考慮して慎重に乗る可能性もある。

 直線の短い中山ならば早仕かけ心理が働くが……。こればっかりは騎手の牽制次第。


 ペースが緩めばポジションゲームになる。

 すなわち、前目につけている馬の優位性が高まる。──の頭固定は怖い。




「なんかいい穴馬いますか?」


 でた!

 恒例の穴馬教えて下さい!


 

 前置きとして言っておくけど、穴党の俺でもこのレースは順当にいけば堅いと思っている。


 ステレンボッシュからチェルヴィニア、スウィープフィート。馬連2点。

 

 あとはイレギュラーが起こるかどうか?

 最近調子が良くて株が上がってるけど、戸崎騎手の本質を忘れてはならない。本命党ならこのレースは怖すぎて買えないはずだ。


 仮に人気馬がお見合いするようなら、

 タガノエルピーダが前目で粘りこむ。可能性もなくは無い。


 あえて紐穴をあげろと言うなら、

 エセルフリーダ

 コガネノソラ

 ミアネーロ

 サフィラ

 アドマイヤベル

 

 でもまあ、長距離はが重要ですからね……。G1ですし。3着までならあるか……。



「ステレンボッシュの頭から三連単で勝負しますわ!」

 

 ハイ出た。

 馬の耳に念仏ならぬ、

 後輩の耳に先輩の競馬予想。

 まったく効果なし。ありがたみゼロ。



 後輩よ。これから続く競馬人生。

 戸崎に震えることになるぞ。

 俺から言わせれば戸崎とホストは同じ人種。


 来たる。5月19日。オークス。

 メス馬の祭典。人生ホストに狂わされるなよな!



 

 

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