第37話 エピローグ2
そのまま事務所で昼食を取り、雑誌を持って撮影した写真と共に、専属デビューの日を迎えたことをSNSで報告。
その後は一旦前田と編集部に向かい、挨拶と今後のスケジュールを確認してから再び事務所へ。
naturallyからの要請通り、18時に再びSNSを更新。
それらを済ませた夏樹は、事務所を飛び出るように帰宅した。一刻も早く柊吾に会いたかった。
マンションに戻ると、晴人が出掛けようとするところだった。専属おめでとう! とハグをされ、夏樹も抱きしめ返す。
夏樹と柊吾が晴れて恋人になった後、晴人がマンションを出ようとしたことはまだ記憶に新しい。絶対いやだ! と夏樹は涙目で縋り、お前が気遣いとか気持ち悪いからやめろ、と柊吾は眉を寄せた。前から決めてたのに、なんて言いつつ、変わらずにいてくれる晴人が夏樹は大好きだ。
晴人を見送り、リビングへと進む。そこにはもちろん、柊吾の姿があった。今日はホームページの更新作業のために、早く帰宅すると聞いてあった。だが、予想とは随分違う顔をしている。祝福してもらえると自惚れていたのだが、何故かぎゅっと眉間を寄せているのだ。
「あれ? 柊吾さん? どうしたんすか……? わっ」
問いかけに答えはなく、突然抱きしめられてしまった。柊吾との触れ合いに慣れるということは一向になく、心拍が一気に上がり愛しさに胸は苦しくなる。
「柊吾さん?」
「……夏樹に触られんの、ムカつく」
「へ……? あ」
どうやら先ほどの晴人とのハグを見られていたのだと気づく。嫉妬をさせてしまったのだろう。
いつか晴人が、『“幼なじみに初めての恋人が出来たと思ったら、溺愛系過保護カレシになっていた件”って本書けそう! いや過保護は前からか!』なんて笑っていたのを思い出す。
柊吾は怒っていたが、夏樹はあながち間違っていないと思っている。こんなに愛されて、大切にされている。そう実感出来る恋を柊吾としているから。
「柊吾さん、キス、したい」
「……ん」
少し背伸びをして、柊吾のくちびるにくちづける。するとすぐ柊吾のほうからもキスが返ってきて、やめられないままに抱きあげられる。向かう先はソファで、腰を下ろした柊吾は膝に乗せた夏樹へキスをし続ける。
「柊吾さん……」
「夏樹、可愛い」
首筋や頬、耳など至るところにキスをされるのがすごく好きだ。その上可愛いだなどと囁いて、愛を滾々と注がれる。夏樹のほうからも耳に口づけ、そこでふと気づく。柊吾の耳を飾っているピアスはあの日、カタログ撮影の日につけていたものだ。
「そうだ柊吾さん、社長に聞いたんすけど」
「んー? どした?」
「カタログの相手役、早川所属のモデルさん、社長が色々紹介したって」
「…………」
「柊吾さんあの時、見つからなかったって。だから自分がすることにしたって言ってたのに……」
「あー、あの社長……ったく。うん、色んな男勧められた。でも……どうしても俺がやりたかったから」
「そうなんだ。やっぱりモデルやってみたくなったってこと?」
「いや、違う」
じゃあどういう意味だろう。夏樹が首を傾げると、ぎゅっと抱きしめられ耳にくちびるが寄せられた。リップ音が一度響いて、恥ずかしそうな声色で甘くささやかれる。
「夏樹の恋人役。誰にも譲りたくなかった」
「へ……」
「恋人のフリだろうが絶対に、そんなの嫌じゃん……」
「柊吾さん……」
柊吾に好きと言われる度、愛されていると実感する度――いっそ怖いくらいに、柊吾への想いがとめどなく溢れてくる。
あの撮影の時、いやもっと前から、そんな風に独占欲を向けられていたなんて知ってしまった。負けないくらいに大好きなこの気持ちをとことん知ってもらわないと、今夜は気が済みそうにない。
ソファで抱きしめ合うふたりの後ろでは、夏樹のスマートフォンが止まない通知に静かに点滅し続けている。南夏樹というモデルとnaturallyというアクセサリーブランドの名が、少しずつ広がってゆく。
情報が溢れる世では、流れ星のように一瞬で見失う人も多いだろう。けれど、ロードスターに住まうふたりの光は、着実にひとりひとりの誰かの胸に届き始める。
無論今は、当のふたりにそれを知る由はないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます