第7話 歓迎会2
一通り洗い終わりテーブルへと戻ると、そこに置いておいたスマートフォンがチカチカとメッセージの着信を知らせていた。先ほどから何通か届いている、夏樹の上京を祝う友人たちからのそれだ。さっそく開いて確認していると、ナッツをつまみながらビールを飲む晴人が「彼女?」とからかってくる。
「地元の友だちっす。彼女からは来てないっすね」
「あ、いるんだ」
「っす。へへ、初彼女なんすよ~」
「マジか。遠距離だと寂しいんじゃない?」
「んー、でも中学からの夢がやっと叶い始めてるとこなので、ワクワクのほうが大きいんすよね」
クラスメイトなどの近しい女子たちからは、いつも「顔はいいけど友だちって感じしかしないんだよね」と言われてきた。そんな中、彼女の
「晴人さんはいるんすか? 彼女」
「俺ー? 俺はねー、付き合ってもすぐフラれちゃうんだよねー。何でだろ」
「だらしないからだろ」
「俺一途だけど!?」
「そうじゃなくて、生活面が」
「うわ、グサッときた……」
「じゃあ少しずつ改めるんだな」
「うーん、それは無理!」
柊吾と晴人の会話はリズミカルで、聞いているだけでも楽しい。少し気の抜けたサイダーを口に含み耳を傾けていると、電話の着信音が鳴り始めた。どうやら柊吾のスマートフォンのようだ。画面を一瞥した柊吾は、通話ボタンを押して立ち上がる。親しげに柊吾の名を呼ぶ男の声が漏れ聞こえる。
「もしもし? なに?」
今から? と問い返しながら、暮れた街を映す窓のほうへと歩いていく。少し渋りながらも「分かった」と答えて通話を終えた柊吾が、またこちらへ戻ってきた。
「ちょっと出てくるわ。朝には戻る」
「りょうかーい」
「お友だちっすか?」
そう問いかけると、柊吾は何故か苦々しく笑った。言いたくなさそうな本人の代わりに、晴人が口を開く。
「友だちっちゃ友だちだけど、ちょーっと違うよな」
「違う?」
「セフレだよ、セフレ」
「え……え!?」
「晴人、余計なこと言うな」
「セ、セフ……」
「あは、セフレって言うの恥ずかしい感じ? かわいい~」
さっき聞こえてきたのは男の声ではなかったか。
いや、問題はそこではない。セフレの意味はさすがに分かっても、夏樹にとってちっとも馴染みがないのだ。地元ではそんな言葉を実際に聞いたことはないし、どこかフィクションのようにすら思えていたのに。
性欲を発散するだけの相手がいる?
このどうしようもなく格好いい、憧れの男に?
はいそうですかと受け入れることが出来ず、夏樹はくちびるを噛みしめて俯いた。
「夏樹? どしたー?」
「…………」
黙りこくっていると、柊吾が動く気配がした。このまま行かせたくない、夏樹は咄嗟に立ち上がる。
勢いに揺れた椅子が、ガタリと大きな音を立てた。
「あ、あの!」
「ん?」
「え、っと……せ、セフレ、ってことは、付き合ってはない、ってことっすよね」
「そうだな」
「……そういうこと、って、好きな人とするもんじゃないんすか」
「…………」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます