このロリ美少女しか存在しない世界で、わたしはあなたに恋をした

小森シオ

このロリ美少女しか存在しない世界で、わたしはあなたに恋をした

 この世界にはロリ美少女しか存在しない。女性は子供を産める身体になったら肉体の年齢が止まり、それ以上成長したり老けたりすることがない。漫画やゲームでは男という存在が登場するが、あくまでも空想上の生物である。だって女は女としか子供を作れない。どうせ現実世界では女しかいないのだから。


 こんな見た目の偏差値が高めの世界で、わたしはあまり可愛い方ではない。なんというかちょっと地味な見た目をしている。わたしは地味な自分を少しでも派手にしようとツインテールに髪を括り、制服の裾を整えて、学校のバッグを持った。下の階からお母さんの声が聞こえてくる。


「アカリ~~。もう友達のリリムちゃんがお迎えに来ているわよ! 早く降りてきなさい!」

「は、はぁ~~い!」


 わたしは友達を待たせるわけにはいかないので、大急ぎで支度をして、階段を降りた。ちょうど玄関の前には綺麗なボブカットに切り揃えた金髪の髪に、派手で明るくて気さくな雰囲気を漂わせた幼げな少女がいた。親友のリリムちゃんだ。その隣のわたしのお母さんも今年で四十歳だけど見た目は派手で美しい少女である。ああ。わたしも母に似たかった。


 この美しさ至上主義社会だと、若さなど武器にはならない。むしろ知性があって、いつまでも綺麗な容姿をしている、年を食った女の方がもてる。わたしも早く年をとってお母さんみたいなもてる大人の女になりたい。


 そんなことより今日は掃除当番だったので、まずわたしはお母さんに話しかけた。


「お母さん。わたし、今日掃除当番で、帰りが少し遅くなるから!」


 すると、母は心配そうに眉を潜めながら忠告をしてきた。


「わかったわ。でも夜になって暗くなると危ないから、交通事故に気をつけて帰ってきなさいよ」

「はぁい。それじゃリリムちゃんいこっか!」


 わたしが語りかけると、リリムちゃんはにたりと笑って白い歯を見せた。


「オッケー。んじゃ張り切って登校しちゃおう!」

「うん。それじゃお母さん。行ってきます」

「はい。いってらっしゃい!」


 私は母に手を振り、玄関の窓を開けて、リリムちゃんと一緒に外へ出た。するとリリムちゃんはわたしにこんなことを言ってくれた。


「アカリは今日も可愛いね。そのツインテールにすっごく似合ってる。あたし可愛いアカリのこと大好きだよ~ん♪」

「も、もうやめてよ。そうやって茶化さないで……」

「にゃはは。やっぱアカリは可愛いな。そのつれない反応がたまんないや♪」

「もう。リリムちゃんったら……」


 わたしを見て、にこにこしているリリムちゃんは本当に可愛い。なんたって、リリムちゃんはわたしの自慢の幼馴染の親友だからだ。実は少なからずわたしも好意を抱いているのだけど、なかなか勇気を出せなくて、素直になれずにいる。


 それも、いつもいつも茶化してふざけてくるリリムちゃんが悪い。そんな雑な扱いされたら告白なんてしにくいに決まっているのに。


 いけない。いけない。なんとか話題を変えないと。わたしは昨日見たアニメの話しをしてみることにした。なんたってリリムちゃんもわたしと同じでアニメやゲームが趣味だからだ。きっと今期の人気アニメ「異世界クレイジーパンチング勇者」を見ているはずだ。アニメやゲームでは男の子が唯一出てくる。つまり現実には存在しない男という生物と恋愛をするには疑似恋愛するしかないのだ。存在するはずもない男との恋愛を妄想するなんて気持ち悪いことこのうえないのだが、好きなものは好きなのだからしょうがないのである。


 でもわたしは二次元も好きだが、三次元のリリムちゃんも好きだ。できたらいつか素直になれる日が来るといいのにと願ってしまう。


 そして、他愛もない会話を続けていくうちに、近々クリスマスということでリリムちゃんが猛烈なアタックを仕掛けてきた。


「ねぇねぇ。アカリィ。今度のクリスマスさぁ。お泊りでデートしようよ? そんで溢れんばかりの若さを迸らせてふたりで気持ちよくなろっか♪」

「もう! リリムちゃん。それってセクハラだからね! それにお泊りデートなんて恋人同士になってからじゃないと絶対にしません」


 すると、毎年恒例のようにリリムちゃんはがっついてきた。


「じゃあさ。恋人になろうよ。そんで気持ちいいことしようよぉ~~。減るものでもないじゃん。ねぇねぇ。いいでしょ? お~ね~が~いぃぃぃぃ♪」

「ダメなものはダメですぅ」

「もうアカリのけちん坊!」


 ぷいとリリムちゃんはいじけたようにむくれてしまった。わたしはリリムちゃんが好きなのだが、こういう不誠実な口説き方をしてくるうちは絶対に付き合ったりしないつもりだ。それにどうせリリムちゃんはわたしの身体目当てで、わたしのことなんて本当はそんなに好きじゃないのかもしれない。一度大人な関係になると、すぐに捨てられてしまうのではないかと、そんな不安が常に付きまとっているのだ。


 でもわたしだってわかっている。このまま返事をうやむやにし続けるのはよくない。そんなうかうかしていると、リリムちゃんを他所の子に盗られてしまうだろう。


 だけど、それでもわたしはリリムちゃんに誠実なお付き合いを前提に告白して欲しいし、できることならわたしから言うべきだろう。でも人見知りのわたしにそんな勇気など出るわけがないのだ。


 そんなわたしの悩みもつゆ知らず、リリムちゃんは熱烈なアプローチをし続けた。


「そんな固いこと言わないでさぁ。アカリ~~。デートしようよぉ~~。あたしら親友でしょ~。ねぇ。おねがいだよぉ~!」


 あまりにもしつこいのでわたしはちょっとイラついてしまって、つい愚痴をこぼしてしまった。


「そんなこと言って、リリムちゃんはデートを楽しむというより、どうせエッチなことしたいだけでしょ?」


 すると、リリムちゃんは無邪気な笑顔のまま首を振った。


「ううん。別にエッチなことだけが目的じゃないよ。だってせっかくのクリスマスなんだし、親友と一緒に過ごしたほうが絶対に楽しいじゃん! まあ。エッチもできたらもっと楽しいとは思うけど、アカリが嫌なら無理強いはしないよ」


 こちらを真っすぐ見つめるリリムちゃんはなんだか輝いて見えた。この子はいつだって自分の気持ちに正直だ。きっと常に楽しいことや面白いことを探求し続けているのだろう。


 そして、わたしのことをそういう目だけじゃなくて、ちゃんと親友として見てくれている。そのことが無性に嬉しくて仕方がない。わたしはつい調子に乗って許してしまった。


「わかった……。考えといてあげる……」

「わぁい。やったぁ!」


 本当にリリムちゃんは子供そのものだ。なんだか純粋でものすごく可愛らしい。それより、あともう少しで高校に辿り着く。よし。決めた。わたしは放課後にリリムちゃんに告白する。


 ☆☆☆


 放課後、わたしはリリムちゃんと一緒に下校している。もう少しで家に到着しそうだ。リリムちゃんは隣の家なので、自宅付近では家族に悟られる可能性がある。

ここで勝負を決めなくては、わたしは近くの自動販売機の前で、リリムちゃんを呼び止めた。


「待って。リリムちゃん。ちょっとジュースでも飲みながら話さない?」


 リリムちゃんは何の疑いの目も向けずに無邪気に頷いた。


「うん。いいよぉ!」


 わたしはお金を自動販売機に投入して、炭酸ジュースを二人分購入し、その一本をリリムちゃんへと手渡した。


「はい。わたしの奢りね」

「うん。あんがと♪」


 ぷしゅっとプルタブを開けたあと、わたしは一口だけ炭酸を呑み込んだ。ぱちぱちとした刺激が喉を刺激して、疲れた身体に染み渡る感覚を覚える。


 わたしは隣に夢中になって炭酸を飲んでいるリリムちゃんを真っすぐ見据えた。


「リリムちゃん。実は話しがあるの」

「ん? なに? トイレェ?」


 相変わらずデリカシーの欠片もないセリフを口にする彼女に呆れつつ、それでもこの無邪気な少女をわたしはとても愛おしく感じた。そして、次の瞬間わたしはついに自分の思いを彼女に吐露することにした。


「リリムちゃん。わたし、リリムちゃんのことがす……」


 そう愛の言葉を告げる前だった。


「アカリ。危ない!」

「……え?」


 わたしは急に自分の身体が浮いていることに気が付いた。そして、母の言葉を思い出した。交通事故には気をつけなさいと。そのあとリリムちゃんがわたしに駆け寄ってきて懸命に呼びかけてくれた。


「アカリィィィィィィ! アカリ。ねぇ、しっかりして! アカリィィィィィ!」


 リリムちゃんは泣きながらわたしの身体を揺すっている。ああ。意識が遠のく。わたしは死ぬ前に最後の言葉を振り絞った。


「や、約束してたデートできなくてごめん……。リ、リリムちゃん……。あの、わたしね……。リリムちゃんのことを世界で一番愛してるの……。だから……さ……。わ、わたしのぶんまで幸せになって……ね…………」


「やだよ! 死なないでアカリ! あたしのことひとりにしないでぇぇぇぇ! アカリィィィィィィ!」


 そのあとリリムちゃんの鳴き声が脳内に響き渡った気がした。ああ。リリムちゃん。泣かないで。このロリ美少女しか存在しない世界で、わたしはあなたに恋をした。もし今度生まれ変わることができたなら、わたしはあなたと結婚したい。そう強く願いわたしはこの世から消え去った。

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このロリ美少女しか存在しない世界で、わたしはあなたに恋をした 小森シオ @yumedayume89

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