卒業試験は異世界ふたり+1旅

いとうみこと

講堂

 卒業を来月に控えたこの日、中世の教会を思わせる講堂に中等部の四年生全員が集められた。間もなく始まる大冒険を前にどの生徒も緊張と興奮を隠し切れない様子だ。ミアもまた自分を落ち着かせるために深く息を吸った。その時、胸ポケットからはみ出した紙が目にとまった。ノートくらいの大きさで布のような手触りの少し黄ばんだ紙で、つい先程受け取ったばかりだ。この何の変哲もない紙には、移動した分だけ地図が浮かび上がる魔法がかけられているという。

「本当かな」

 思わず疑問がこぼれる。しかし、本当でなければこれから始まる卒業試験は成り立たない。この地図をどれだけ完成に近づけられるかで卒業の可否のみならず進学先さえ変わってくるのだから。


 ミアが真っさらな地図をポケットにしまい直した直後、黒のローブを纏った校長が靴音も高らかに壇上に現れた。途端に場内がしんと静まり返る。校長はひと通り場内を見渡すと、普段よりずっと威厳のある声で話し始めた。

「諸君にもいよいよ卒業試験の時が来た。もう聞き飽きたとは思うが、最後にもう一度念を押しておく。君たちがこれから行く先はこの世界とそっくりだ。人も自然も建物も何らここと変わりがない、言葉すら同じだ。だからといって決して油断してはならないぞ。現実世界ですら旅には危険がつきものだが、君たちが行くのは異世界だ。まずは身の安全を第一に行動してほしい。その上でパートナーとよく協力して目的を果たすこと。独断専行は思わぬ悲劇を招くと肝に銘じるように。では、健闘を祈る」


 校長の言葉に促されるように、背後の女神像が徐々に輝きを増していく。やがてそれが直視できない程の光に包まれた時、地響きと共に女神の足元の扉が開いた。

「準備が整ったようだ。では、名前を呼ばれた者は前に出るように」

 ミアの鼓動が一気に高まる。いよいよ一週間の旅を共にするパートナーが明かされる。できれば気心の知れた相手と組みたいところだが、当てにしていた友人はひとり、またひとりと名前が呼ばれ、他の誰かとペアになって扉の向こうへと消えていった。そして、残り僅かになってやっとミアの名前が呼ばれた。


「ミア・ナサカ、アルト・ルマク」


 ミアが女神の扉の前に立つのとほぼ同時に、隣に見慣れぬ少年が並んだ。ミアが視線を送っても前を向いたまま口を一文字に結んで、一向にこちらを気にする様子はない。ミアは「よろしく」さえ言えぬまま、眩しい光の中へ一歩踏み出した。

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