地獄の花/山澤琥珀(ヤマザワコハク)

 雪の中で数百の松ぼっくりが、燃えていた。

 煙が空に昇る。白く凍った木々の間にそれは漂った。

 火の匂いが鼻に刺す。焦げた枝の弾けた音が鳴り響いた。足元で手が生えてくる。

 土を掻き分けて伸びた手が次々と地表に出た。手はあちこちで雪をかき分ける。伸び上がった手が子供の形をつくった。

 腕はあらゆる方向に曲がる。指先が雪に触れた。少女が立っている。

 大きな花がそびえていた。花の根元から手が絡みつくように伸びている。少女が花を見上げていた。

 手が花に掴みかかる。花びらが開いた。根元にうごめくものがある。

 少女が手を差し出した。花の根から手が伸びる。小さな人形が手に握られていた。

 少女が人形を受け取る。薄い笑みがこぼれた。雪が降り始める。

 火が吹き消された。花が揺れている。根元の手が雪を掻き分けた。

 焼けた松ぼっくりが割れている。手が次々と生えた。少女が歩き始める。

 花の周りを一周した。手が地面から伸び上がる。雪が彼女の髪に積もった。

 歩く度に音がする。人形を握りしめた。腕を振りながら進む。

 木の陰に男が立っていた。煙の向こうに姿が見える。コートに雪が積もっていた。

 じっと見つめている。少女は気づかずに歩き続けた。男が歩き出す。

 手が彼を取り囲んだ。足元で動くものがある。松ぼっくりが割れていた。

 手が生える。煙が顔にかかった。少女が立ち止まる。

 花の前で人形を見つめた。握りしめていた手が震える。風が吹いた。

 花びらが揺れる。男が少女に近づいた。雪が音を吸い込む。

 静かな空間に足音が響いた。少女が振り返る。人形を見せた。

 男が手を伸ばした。突然地面から伸びた手が男の足を掴む。男は転んだ。

 煙が彼の顔を覆う。手が次々と彼を囲んだ。彼はもがく。

 少女が花の方を向いた。花びらが開く。根元から手が伸びた。

 手は男を引きずりながら花へと運ぶ。彼の叫び声が木々にこだました。少女は無表情で見つめる。

 男が花の中に消えた。花びらが閉じる。根元に絡みつく手が彼を引き込んだ。

 雪が彼の跡を覆う。少女は人形を握りしめた。そして歩き出す。  

 木々の間から新しい松ぼっくりが顔を出した。雪が次第に積もる。松ぼっくりがゆっくりと燃え始めた。

 手がそこから伸びている。少女は振り返らずに進んだ。花の方から何かが動く。

 手が地面から伸びた。雪の中で手が生まれている。松ぼっくりが次々と燃えた。

 焼ける匂いが漂う。煙が空に昇った。雪をかき分けた手が生えてくる。

 彼女は人形を握りしめる。雪が髪に積もった。火の勢いが増す。

 手が花を囲んだ。花びらが開く。根元から手が伸びた。

 少女が立ち止まる。花に向かって手を差し出す。人形が手に握られている。

 風が吹いた。木々が揺れる。煙が彼女の周りに漂った。

 花の中から手が伸びる。少女が花を見つめる。

 少女が、花びらの間から消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る