last/lostline

星七

1.First/lostline (1)


「……で、あるからして、1は最初だけど本当の最初では無いと言う事なんです。……おや、少し早くに終わってしまいましたね。…では少しの間自習を──」


「はい!先生!残った時間貰っても良いですか?まだ、文化祭関連で決まってない事があって……」


「5分しか無いですし、良いですよ。」


「ありがとうございます!それじゃあ──」


 あと5分で終わる6限目。国語の学習範囲が一通り終わり、残った時間で始まった文化祭で行う劇の約決め。

 クラス長が黒板前で話しているのを横目に、俺は外をみて居た。


「う〜ん……暇だ。」


 気怠げな主人公みたいな台詞を吐き、肘をつく。カッコつけの為に呟いているわけでは無く、本当に暇だった為に言葉が口から溢れただけだ。

 俺は文化祭に参加するつもりは無い。もっと言えば、ここ学校にだって来たくは無い。ただ、大学に行く為に必要だから来ているだけだ。


「はぁ……」


 偽りの学校生活、偽りの学校行事。

 高校生活が偽りの学校生活だと思ったのはあの日・・・からだろうか。高校3年生にもなってもまだ、中学生の記憶だけがフラッシュバックしてくる。いや、高校の記憶だけが抜け落ちているだけだろうか。

 

(キーン…コーン…カーン…コーン……)


 そんなこんな暇を持て余していると、6限目の終わりを告げるチャイムが耳に入る。そして、同時に、号令の合図も耳に入った。


 (「気をつけ!礼!」)


 今日の日直が号令をかけると、クラスの生徒全員が上半身を前に倒し、椅子に座ったまま礼をする。勿論、俺も同じ動きで礼をする。

 というか、小学生の頃からこの動きをしているせいで、もはや号令をかけられると身体が先に動く様になってしまった。


 LHRロングホームルーム前の休み時間が訪れる。

 すると、それをきっかけに沈黙の切れる音がして、クラス中がわいわいがやがやと騒がしくなった。


「はぁ……うるさいな…」


 人の塊ひとつから声が発生し、もう一つの人の塊からそれを打ち消しまいと、より大きな声を出す。言うなれば、騒音の饗宴だ。


「がまん……がまんだ……」


 目を瞑って両手を組み、瞑想をする。これが、気持ちを落ち着かせるのに一番適してるのだ。


(「ねぇ……ちょっといい?」)


 俺の前の方で声がする。前の席の子が誰かに話しかけているのだろうか。ちょっと盗聴させてもらおう。


(ちょっとってば!)


 肩を揺さぶられる。どうやら話しかけている相手は俺らしい。

 ……確か前の席は雪野さんだったよな。


「何、雪野さん?」


「違うわよ!ちょっと目を開けなさい!」


「え?」


 ゆっくりと目を開ける。するとそこに居たのは────


「ゆっ─!?」


 長めの黒い髪に整った顔立ち、令和のクレオパトラとも言えるその美貌を持ったその女生徒は中学生の頃に付き合って居た彼女───


「ゆ?私は世良よ。一応学級委員長なんだから名前、覚えてよね。」


 ではなく、彼女に非常に酷似した別人の様だ。色々なイベント学校行事を早退や欠席連絡で休んで居たせいで姿を見た事が無く、驚いてしまった。


「あ、いや、何でも無い。てか、何故このクラスに?」


「貴方に用事があって来たのよ。」


 俺に用事?何だろうか。もしかして、学校行事を休み過ぎて、最後の文化祭にはちゃんと参加しなさい!とか言い出すんじゃ無いだろうな……


「文化祭には参加しないからな!」


「最後くらい参加した方が良いんじゃ無いかしら?まぁ、用事は貴方を学校行事に参加する様に言わせる事じゃ無いから参加の有無にとやかく言う権利は無いのだけれど…」


「え?それじゃ──」

 

 それじゃあ何要で?と声を出す前に、彼女はその美貌をこちらの耳に近づけて来た。そう、耳打ちと言う奴だ。


(「放課後、第三準備室で」)


「え、何で?」


「言いたい事はそれだけだから、じゃあね。」


 彼女はそう言うと俺の返答を返さずにこのクラス三年A組から出て行ってしまった。


「え、何で……?」


 目の前の先程までいた人物を思い返して、独りごちる。

 結局、彼女はこれを伝える為だけにこのクラス来たのだろうか。そんな事を考えて、ぼーっとしてると隣の女子が近づいて来た。


「ねぇ!もしかして、今のって!!」


「今の?あぁ、学級委員長?」


「そう!そうなんだけど!!そうじゃないと言うか……聞こえちゃったと言うか……」


 この子は何を言いたいのだろうか。急に近づいたりして来て。しかも、聞こえちゃったって何がだ?……は!もしかして、あの耳打ちが聞こえ───


「人気の無い場所に呼び出しとか!つまり、そう言う事だよね!アレだよね!!」


 あー、聞こえて居た様だ。しかも、その子がそれを大きな声で言う事で、勿論周りの人も聞こえてしまうわけで──


「何だ何だ!?委員長からの呼び出し!?」


「おいおい、まじかよ!!」


「くそう、こいつのどこが良いんだよ……」


 俺の席の周りにはアイドルもびっくりの人だかりが出来てしまった。きっと、中には他クラスの人も入っているのだろう、今目の前にいる人だかりは適当に見積もって60人はいる気がしたからだ。


「はぁ……最悪だ。」


 勿論、この委員長好きな人疑惑の問題もそうだ。だが、それ以上に途轍もなくうるさくなってしまった。騒音の饗宴が、騒音のオクトーバーフェスト世界最大級の祭りにランクアップしてしまったみたいだ。


「今日も……今日も……音も立てずに居たのに………何でこうなるんだよ〜!!」



***



「はぁ、何とかなった。」


 LHRが始まり、ポツリと呟く。

 あの時、みんなが近づいてすぐに、チャイムが鳴り、担任の先生が入って来た事で、何とか難を逃れる事が出来た。

 まぁ、それも一時的な物なのだが……


「───な事があったから皆さんも気をつける様に。えーと、他に連絡は──大丈夫ですね。では─」


「起立!!」


 先生が諸連絡を伝え終わるとすぐに日直の号令がかかる。


「気をつけ!礼!!」


 皆が礼をする。俺もいつもなら同じく礼をするのだが、今回は特別だ。今回はキッチリと礼をするわけではなく、軽く礼をしてその場から駆け出した。


「は!?」


 後ろを振り向くと、大量の人々と目線が合った。

 しかも、同じく走って俺を追いかけて来ている人々と。軽く礼をしたのは俺だけじゃ無い様だ。


 もし、仮に委員長が好きと言うつもりだったとして、こいつらは俺について来て何をしたいんだろうか。もしそうだった場合、明らかに邪魔だろう。


「第三……第三……っと!」


 俺を呼び出す用事はきっと、そう言う事じゃ無いと感じたので、人々を連れて第三準備室に向かった。

 第三準備室の場所は一階で、三年A組の下にある空き部屋と言えばわかりやすいだろうか。


「ふぅ……」


 第三準備室に駆け込むとすぐに左右どちらの鍵も閉めた。部屋を見ると薄暗く、ただ電気のついて居ない教室と言う雰囲気だ。


「委員長は…まだ来てないか……」


 委員長が来て居ない事は何となく理解して居た。

 何故なら、三年A組はLHRが最速で終わることで有名で、俺は一番最初に教室を出ているからだ。時間的に他クラスはまだLHR中だろう。


 仕方がないので片方のドアの入り口の方に立ち、委員長が来るのを待とうと、ドアの方に目を向けると──


「ひっ───!!」


 俺はあっと驚き声を出せずにいた。第三準備室のドアの前に3年A組全生徒がいたからだ。


(「あけろ〜!!めぐる!お前はもう包囲されている!!」)


 クラスの一致団結とはこれほどまでに恐ろしい物なのか。この光景は立てこもり犯に警察がメガホンで声をかけている時にそっくりである。


 俺はこの光景に対して、非常に恐怖を感じ、蹲って目を瞑り全てを見なかった事にしようとした。



***



 ───あれから何時間経っただろうか。体感3時間。外はまだ明るく、人だかりも残ったままだ。

 ただ、変化を感じられる部分も合った。それは、ドアの前の人々静かになり、俺ではなく廊下の別の方を見ていた点だ。


「何で急に静かに……」


 恐る恐るドアの鍵を開け、俺も同じ方向を覗く。すると……


「な、何で!?」


 覗いていた方向には担任の先生と委員長が並んでこちらに歩いて来ていた。

 だが、少し考えて気づく。委員長が俺をここに呼び出した理由を──


「嘘つきやがって…」


「でも、こうでもしないと貴方、文化祭参加しないでしょう?」


 そう、文化祭参加に参加をしろと先生と対面で話させる為だ。先生と対面で話すとなると最強の切り札、親に電話を使われて脅されるのである。(何故、最強の切り札なのかと言うと、単に俺がこっそり休んでいる事を親に伝えていないからである。)

 だから、先生を避け続けていたのだが、こうして逃げ場を無くされると参加せざるを得なくなってしまう。


「はぁ、めんどくさ……」


 ポツリと呟く。幸か不幸か、全てを察した生徒たちがその場から去っていく。面白い話題には近づいて、興が覚めると帰って行く。まるで、悪質な粘着ジャーナリストの様だ。


 それからと言うものの、先生にぐちぐちと小言を言われ続け、終いには脅されて、文化祭に参加する事が決定してしまった。


「はぁ………本当に最悪な日だ。」


「ごめんって。」


「委員長、お前だけは絶対に許さないからな。」


「別に良いよ?また今日みたいな日が来ても良いなら」


「ごめん。許すから、それだけは──」


「ま、冗談だけど…」


 決めた。こいつは絶対に許さない。地獄へ行こうとどこへ行こうとも。絶対に何か仕返ししてやる。


「じゃあ、先生も先に出て行ったし、本題に入ろうか」


「え、本題?」


 本題とはなんの事だろうか。静まり返った部屋で必死に脳をフル稼働させて思い出す。


「覚えてないの?ここに呼び出したじゃん」


「え、でも、それは文化祭に参加させる為の──」


「あぁ、あれね。あまりにも多くの人が来そうだったから興味を無くさせるためのブラフだよ。」


 そう言われると同時に、心臓の鼓動が速くなる。もしや、もしかしてと、そう言う事を言われるのではないか、と考えてしまう。俺の脳は意外と恋愛脳らしい。


「でね、本題なんだけど私──」


「まって!そう言うのを女子に言わせるのは──」


「はぁ……好きとかそう言うんじゃ無いからとりあえず、一旦聞いて。」


「え?」


 そして、俺は生きている上で絶対にアニメでしか聞いた事がないファンタジーな、SFチックなセリフを聞くこととなる。





















「実はね、私この高校生活をループしているの。」

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