第2話 王様、双子の弟に愚痴る。
ずっと季節と時間を問わず蓮が咲いている泉のほとりにある、少し不思議な雰囲気を醸し出す宮殿だ。あたり一面に静かで清浄な空気が漂う。
少しだけ気を落ち着けると、龍聖宮の門をすたすたと抜け、庇の間にひょいとあがった。
すると、部屋の中の
「ねえ、珠理、怒気がすごいんだけれど。穢れが満ちるからやめてよ」
「話を聞けーっ!
その言葉に困った顔をして眉をひそめた少年は珠理の双子の弟の珀琳。この国の
龍主としての腕は確かだ。なにせ龍を母に持ち、自分も龍の要素が強い。
だが、
人間の要素が強く、どんなところでも元気に生きられる珠理とは真逆。
ぬう、と珠理は双子の弟相手に鼻息を荒くした。
「何があったの」
「父上がひどいんだ!」
またその話、僕は本が読みたいんだけど、と言いながら、それでも珀琳は手を叩き、側仕えの人間に白茶を用意させた。
同じく白茶を手に取った珀琳がいう。
「僕は今日中に読みたい本があるんだ。手短に済ませてよ」
「……耳障りになったらごめん。今日、謀反人の処断があった。父上が処断した」
少しだけ珀琳は身をすくめる。高潔な龍の要素の強い彼は、謀反など低俗な話題が得意ではない。
「それで? その方はどうなったの」
「一室で事情をみっちり聞かれることになりそうだ。でも、父上の独断専行なだけで、私は彼は謀反など犯していないと思う」
「どうして?」
「目がつぶらで可愛かったからだ」
珀琳は実父と同じように目眩がしたように目をまたたかせた。
「冗談だよね? 珠理」
「本気だ! ああいう目をした人間に悪い奴はいないと思う!」
「ごめん、ちょっと」といいながら、珀琳は側仕えに籠を持ってくるよう命じた。ぼん、という音とともに、白い龍の姿に変じた。珀琳にとっては龍の姿の方が低俗な話をするときに楽であるらしい。籠に自分の着ていた衣装を詰めて、双子の姉にツッコミをいれた。
「詳しく話を聞かせてよ。その謀反人、どうして父上に処断される羽目になったの?」
「その
「謀反人でしょ。これで謀反人じゃなかったら誰が謀反人なの」
「だけれども」
「信用できる配下だけ残して、武器を輸入して、武器が作れる鉄を購入し、食料や金になる塩を買い付け、家から大量の武器が出て、僕らの暗殺計画の概要が書かれた分厚い冊子が出て、しかも珠理が襲われたんじゃ、謀反人だよ」
「わかってはいるが、父上が謀反人と断じられたからものすごく嫌なんだッ!」
「確かに父上は女好きだし、お召しになっている服はけばけばしいし、わがままで金遣いは荒いし、人間的にどうかと思う面もあるけど、今回の判断は正しいよ」
「その、父上の女好きで、お召しになっている服はけばけばしく、わがままで金遣いは荒いし、人間的にどうかと思う面が嫌なんだっ! 政を任せてもくれないし!」
珀琳は首をくるくると回し、ヒゲを前脚でちょっと撫でるように引っ張った。いい加減にしてくれよ、と思われているらしい。双子の弟の冷静さにも腹が立つ。
双子の弟は「本を読ませてよ」とひどくため息をついた。
「でもさ、つぶらな瞳とかそういう思いつきで行動するから、父上に政をまかせてもらえないんじゃないの? その、魏寧、殿? という方を擁護するために、何か証拠を集めた? 珠理は」
「私が言えばそれが証拠になるだろう」
いきなり、珀琳が頭を抱え、「うわあああああ!」と叫びながら、宮殿から飛び出し、蓮泉へと突っ込んでいった。不審に思いながら、珠理は追いかけていく。
「バカなの? ねえ! 珠理って本当にバカなの? 誰かを擁護したかったり、物事を立証したいときは証拠を集めるんだよ? 謀反してないよ、ないしは父上が勘違いしてるよっていう証拠を!」
弟は龍の姿で蓮の咲く泉の中をばしゃばしゃ暴れながら、叫んだ。どうやら頭に血がのぼったのを冷やしているらしい。
「ば、バカって言ったな! 私より遅れて生まれてきたくせに!」
珠理は蓮の花咲く泉に飛び込もうとした。
その瞬間、「おや」とゆったりした声が聞こえた。
「姉弟喧嘩ですかなぁ〜? おやめなされ、双子のお二人」
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