陽キャアイドルの幼なじみに夢を話した件について
オレは自分の部屋に戻って、ベッドに寝転ぶ。
そして、さっき真奈さんに会った時のことを思い出した。
他人と話すのが苦手なのに無理した緊張のせいか、それともずっと会って話してみたかった人に会えた喜びのせいかわからないけれど、さっきから心臓の鼓動がずっと速いままだ。
思い返すと、うまく話せていたかわからない。
でも、初めて会った真奈さんは、思い描いていた通り、明るくて、どこまでもまっすぐで、ファンのことを考えていて――。
やっぱり、オレの憧れの人だ。
「真奈さんと友達だった姉ちゃんに感謝しないとな」
その時。
スマートフォンに電話がかかってきた。
ベッドに座り直してから、操作をして、電話に出る。
「もしもし」
「あ、たっくん?」
スマートフォンから、篠原の声が聞こえた。
「篠原。今日のイベントどうだった?」
すると、篠原は嬉しそうな声で言う。
「すっごく楽しかった! 目の前で見る真奈ちゃんかわいくて空気がキラキラしてて、ずっと私の目を見て話聞いてくれてて」
「うん」
「自分の番が来て真奈ちゃんのところ行った時にね、真奈ちゃんすぐコラボネックレスつけてること気づいてくれたの! たっくんと選んだワンピースも『私のイメージカラーに合わせて服選んでくれたんだー!』ってすっごく喜んでくれてね」
「そっか。よかったな」
「たっくんが大丈夫って言ってくれて、あのワンピース選んで本当によかったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
オレがそう言うと、篠原は急に小声になった。
「……で、それでね。私、真奈ちゃんに『いつか絶対声優になります』って話しちゃった」
「真奈さん、嬉しそうにしてたんじゃないか?」
「……うん。でも、憧れの人に直接言うなんて恥ずかしいよね」
実際に真奈さんは嬉しそうにしてたけどな。
「……たっくん? どうかした?」
「な、なんでもない」
そして、オレは言った。
「あのさ、篠原」
「何?」
「実はオレにもあるんだよ。夢」
「そうなの?」
そして、オレは一呼吸置いて、言った。
「イラストレーターになりたいんだ」
すると、篠原は言う。
「たっくんならなれるよ。絶対」
「そうかな」
「……だって私はたっくんのこと、ずっと知ってたんだから」
「え?」
「なんでもない。それでね、このあいだ真奈ちゃんのラジオにおたより送ったことも話したんだ」
篠原の言葉に、オレはこのあいだのことを思い出して、言った。
「そういえばオレ、そのおたよりが読まれた回勉強中にリアルタイムで聴いてたんだよな」
「え!?」
篠原の大きな声がスマートフォンに響く。
「『あーちゃん』ってラジオネームでたぶんそうかなって思ってた」
「そ、そっか。そうだよね。たっくんも聴くよね。真奈ちゃんのラジオ……」
「明石達にオタクを隠してることを悩んでるっておたよりだと思ってたけど、違うのか?」
オレが聞くと、篠原は拗ねたように言う。
「……たっくんにはまだ教えてあげないんだから」
「どういう意味?」
「さあ。どういう意味だろうね?」
――その後。
篠原が真奈さんのラジオに送ったおたよりの最後に『これは恋愛相談です』と書いていたことをオレが知ったのは、ずっと後の話だった。
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