Voice.4 部活楽しみだね

陽キャアイドルの幼なじみと次の約束をした件について

「私、声優になりたいんだ」

「え!?」


 篠原の言葉に、オレは思わず声をあげた。

 すると、篠原はマイクのスイッチを切る。


「そんなに驚いた?」

「まさかそういう話されるとは思ってなかったから……自分の夢言うのってけっこう勇気いるだろ? それをオレに話してくれるなんて思わなくて……」


 それからマイクをテーブルに置いて、ソファーに座った。


「それはたっくんだからだよ。たっくんのおかげで私は夢ができたんだもん」

「オレのおかげ?」


 オレは首をかしげる。

 夢ができたきっかけを作ったくらいじゃここまで話してくれない気がした。

 そんなオレの反応を見て、篠原はうつむく。

 そして、ゆっくりと話し始めた。


「私、小さい頃から周りの反応ばっかり気にしてたんだよね。家族にも友達にも嫌われたくなくて、両親が仕事で忙しくてもわがまま言えなかったし、たとえば周りの友達に『一緒にピアノ習おうよ』って誘われればそうしたし、習い事にもいろいろ通ったりした」


 たしかに幼稚園の時、篠原とは遊ぶ時間があんまりなかった気がする。

 マンガ読んだりアニメ観たりしてたオレとは正反対だ。


「学校だけじゃなくていろいろなところ行ったおかげで友達はたくさんできたし、ピアノとか運動とか、できるようになったことはたくさんあるんだけど、できるようになったことで本当に好きだって思うことはなかったんだよね」


 そんなふうに今まであったことを話す篠原の声は、オレに暗い顔をさせたくないのか、いつもより明るく聞こえた。

 篠原は続ける。


「でも、中1の時たっくんのおかげで真奈ちゃんのファンになって、初めて自分が本当に好きだって思うことが見つかって、声優になるっていう夢ができたの」


 そして、篠原はオレの目を見て言った。


「だから私、たっくんには感謝してるんだ」

「……そっか。話してくれて嬉しいよ」

「っていうか、ロシアン当たったから断れないしね」


 篠原はさっきのオレの言葉を真似する。

 そして、続けた。


「中学は演劇部がなかったから軽音楽部入っててパートはキーボードだったんだけど、高校は演技の勉強するために演劇部に入ろうと思ってるんだ」

「オレは中学も美術部だったから高校も美術部にする」

「部活楽しみだね」


 篠原はそう言って、タブレットで次の曲を予約してから立ち上がる。

 そして、テレビの横に立ってマイクのスイッチを入れてから、言った。


「じゃあ……次が最後の曲です!」

「ええー! まだ来たばっかりー!」

「私も終わりたくないよー!」


 柚木真奈さんのセットリスト再現カラオケの続きだ。

 それから、最後の曲の後のアンコールまで全部再現して、カラオケの部屋を出る時間が来た。

 部屋を出て、ロビーの受付で会計をする。

 2人で帰ろうとした時、篠原が制服のスカートのポケットからハンカチを落とした。


「あ!」


 すると、それをちょうど店に入ってきた女子が拾って、篠原のほうに歩み寄ってきた。


「これ、あなたのハンカチですか?」


 女子はそう言って、篠原にハンカチを差し出す。

 篠原は申し訳なさそうにハンカチを受け取った。


「はい! 拾ってくださってありがとうございます!」

「どういたしまして」


 女子はそう言うと、カラオケの受付をして部屋に入っていった。

 オレは篠原に声をかける。


「篠原、大丈夫?」

「うん、大丈夫! ごめんね」


 そして、カラオケ店を出て電車に乗る。

 駅に着く頃には、もう外は暗くなっていた。

 家に帰る道を歩きながら、隣に居る篠原を見る。

 篠原はとても嬉しそうな顔をしていた。

 なんかあっという間だったな、と思う。

 篠原は明るく大きな声で言った。


「今日すっごく楽しかった! 池袋1日じゃ回りきれないよ」

「けっこう遊んだと思うけど」

「でも、まだ行きたいところたくさんあるんだよ。アニメのコラボカフェとか原画展とか映画とか」

「そっか。オレでよかったらいつでもつき合――」


 そこまで言って、オレはあることに気がついた。

 あれ?

 これ全部言ったら告白だと思われるんじゃ――。


「たっくん?」


 篠原は首をかしげる。

 顔が熱くなって、オレはあわてて今思ったことをごまかした。


「な、なんでもない!」

「そう? 顔赤いけど」

「気のせいだよ気のせい」

「そっか」

「とにかく、オレでよかったらいつでも誘ってくれ」

「ありがとう」


 すると、篠原は自分の家の前に行く。

 そして、振り返ってからオレを見て、言った。


「また2人で遊ぼうね!」


 そう言った篠原の笑顔は、今までで一番かわいかった。

 その表情に、思わずオレは見とれてしまう。


「……ああ」


 そのせいで、こんな返事しかできなかった。

 そして、オレは篠原を見送ってから家に入る。

 私服に着替えてから家族と夜ごはんを食べて、自分の部屋に入った。

 ベッドに寝転がって、スマートフォンの画面をつける。

 すると、篠原がメッセージアプリのアルバムに写真を追加してくれていた。

 篠原が今日撮った池袋のいろんな場所の写真を眺めながら、さっきの篠原の笑顔を思い出す。


 ――「また2人で遊ぼうね!」


 その時。


「うわっ」


 オレとメガネと文豪のグループメッセージに通知が届いて、オレは思わず驚いて肩をびくつかせた。

 開くと、メガネからのメッセージだった。


「2人とも、オレ達3人で部活作ろうぜ!」

「ゲーム制作部!」

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