本気を出したダンジョン


 九層。火山エリア。ついに終わりが見えてきたね。なんか実感も何もないけど。

 そしてこの九層は、とても危険なエリアだ。マグマがむき出しに流れる川、あちこちで爆発するいくつもの火山、そして飛び回る赤いドラゴンたち……。ここにきて殺意が増した……!

 なんてことは当然あるはずもなく。


「リオンちゃん! 見て見て! この川、温泉だよ!」

「もぐもぐ……。温泉饅頭、なかなか美味しいわね……」

「…………」


 なんか、温泉街がありました。


「あああああああ!」


『リオンちゃんが壊れた!』

『この人でなし!』


「まだ私何もしてなくないですか!?」

「むしろお前以外に誰がいるんだ……!」


 なあんで、ダンジョンに温泉街なんてあるんですかねえ!?

 ここはダンジョン九層温泉街エリア。最後の決戦の前に、長い戦いの疲れを癒やしてね、というものらしい。わあ、なんて気遣いのあるダンジョンなんだろう。素晴らしいね。


「気遣いがあるダンジョンってなんだよ! なんで二足歩行の猫が接客してるんだよ! このもふもふめ! もふもふしてやる! もふもふ!」

「にゃあ!?」


 近くのお店の店員猫さんを捕まえてもふもふする。もふもふもふもふ……。




 いつもの階段から下りた先が、この温泉街だった。このエリアのコンセプトはさっき言った通りだ。そんなコンセプトだからボスもいないらしい。

 大きな石畳の道に、片側にたくさんのお店が並ぶ。もう片方は、大きな川。流れの緩やかな川で、湯気が立つ不思議な川だ。なんと温泉が流れてるらしい。なんだその不思議仕様。


「ちなみに温泉の川はリオンさんの世界にもありますよ」

「マジで?」


『マジであるぞ』

『草津温泉とかにあるはず』


 マジなのか……。日本もすごい。

 お店の店員は全て二足歩行のにゃんこたち。大きさは小さくて、ボクたちの腰ぐらいまでしかない。今のボクの腰までだから、本当に小さいよ。

 そしてもっふもふだ。とてもかわいい。


「もふもふもふもふ」

「や、やめるにゃあ……。気持ちいいにゃあ……」

「わあ……。わ、わたしも、もふもふしていいかな……!?」

「それならあちしをどうぞにゃー!」


 クレハちゃんの側に隣の店員猫さんが駆け寄っていった。その子を抱いてもふもふもふもふ。クレハちゃんもとっても笑顔だ。かわいいからね!


「それはそれとして……。十層はどうやって行くの? 素通り?」

「にゃ!? それは困るにゃ! ちゃんとお世話されるにゃー!」

「むぎゅう」

「リオンちゃん!?」


 店員猫がたくさん集まってきて、ボクを押し潰していく。たくさんのにゃんこが……ボクの上に……もふもふふわふわで……ああ、なんて幸せ……。


「あ、うん……。大丈夫そうだね……」

「しあわせー……」

「い、いいなあ……」


 クレハちゃんがそう言った瞬間、猫たちが殺到していった。あっという間に埋もれていくクレハちゃん。幸せそうな声が聞こえてくるね。


『どうしようめちゃくちゃ羨ましい』

『リアルだとあんなにたくさん猫が集まってきてくれることなんて、ほとんどない』

『ちくしょう羨ましいぞリオン!』


 あははー。いいだろうもふもふの山だー。


「ねえ、アスティ様。なにこれ」

「温泉もふもふパラダイスです! 温泉にも猫ちゃんいっぱいですよ!」

「そ、そうなの……。ちなみにリオンちゃんは猫派なのかしら」

「どっちもすきー……」


 猫も犬もかわいいよね。もふもふだよね。特に子猫子犬が好き。とてもかわいい。成長せずにちっちゃいままの猫とかいたら……。


「いや待て。変なこと考えるなボク。アスティが何をしでかすかわからないぞ」

「もうちょっと望んでくれたらご用意しますのに……」


 あ、あぶない! こいつマジでやるだろうから怖い! 遺伝子操作なんて目じゃないぐらいのやばいことをやるぞこいつ!


『いともたやすく行われるえげつない行為』

『未遂だから! 今回は未遂だから!』

『やろうとした時点でアウトなんだよなあ』


 日本どころか地球の生態系がおかしくなりそうでボクは怖いよ。

 ともかく。こんなところでもふもふを満喫している場合じゃない。もうさっさと十層に……。


「ちなみに十層に行く条件はもふもふ温泉に入ることです」

「なんで?」

「そういうことになってます」

「ええ……」


 いや、まあ、うん。別にいいけどね? 平和に進めるならそれが一番だよ。理解はできないけど納得はする。そっちの方が楽だし。


「よし……。それじゃあ、温泉だ!」

「にゃーん!」


 猫たちが嬉しそうに駆けていく。このまま案内してくれるみたい。クレハちゃんもようやく解放された。ちょっとだけ名残惜しそうだったけど……。うん。気持ちは分かるよ。

 猫たちに案内されて向かった先は、とっても広い露天風呂。どれぐらい広いかと言うと、なんと琵琶湖と同じ大きさらしい。バカじゃないのか。


「実は温泉の広さはちょっと悩んでいたんですよ。スペリオル湖ぐらいにしようかなと思っていたんですけどね」

「なにそれ」


『スペリオル湖っていうのは北アメリカにある湖で、琵琶湖の百倍以上の大きさだぞ!』

『琵琶湖でも広いと思うのにもっと上ってあるんだ……』

『なお上にまだカスピ海があったりします』


 あー、なんか聞いたことあるね。名前で最初は海だって思ったから、逆に世界一大きい湖で覚えたと思う。

 それにしても、だ。


「選択肢にスペなんとかが入ってくる時点でおかしいと思うなあ」

「は……! そうでした! すみません! カスピ海ぐらいの広さにするべきでしたしましょう!」

「おいバカやめろ。そういう意味じゃない」


 逆だよもっと狭くていいんだよ。というか琵琶湖の広さですらいらないよ。意味がないにもほどがある。

 まあ、今更もう広くはしないと思うけど。しないはず。しないよね?


「にゃにゃにゃ!」


 ちょっと疑わしく思っていたけど、猫たちが集まってきたのでボクの思考はどっかにいった。

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