スキー


 二十分ほどして、アスティが戻ってきた。


「お待たせしました! ばっちり雪山のログハウスらしい食べ物をご用意しました!」

「ほほう」


 アスティが戻ってきたことにちょっとだけ安心した。内緒だけど。

 それはともかく、雪山らしい食べ物。それはちょっと気になる。なんだろう。温まる食べ物といえば、やっぱりシチューとかだけど……。


「じゃーん! ピザです!」


 アスティが持ってきたもの。それは、ピザだった。しかも大きいサイズが三枚だ。さらにはサイドメニューのポテトや唐揚げも山盛りである。

 うん。とても美味しそうな香りだ。けれどボクは言いたい。


「雪山要素が! かけらもない!」

「え!?」


『え、じゃないが』

『むしろ女神様はピザのどこに雪山要素があると?』

『ていうか女神様、せっかくなら現地でリオンちゃんと一緒に作れば良かったのに』

『リオンちゃんといちゃいちゃしながら作るチャンスだったのにな!』


「しまった……その手があった……!」


 心底悔しそうに言うアスティ。そして、慌てたようにテーブルに置いたピザに手を触れて、


「これは、見なかったことにしてくださ……」

「は?」


 思わず、低い声が出てしまった。


「雪山らしさは置いといて。ボクはピザが好きなんだよね、アスティ」

「え、あ、はい」

「そんなボクの目の前にピザを出しておいて、片付ける? へえ? 面白い冗談だねアスティ」

「ごめんなさいなんでもありません」


 そう言って、アスティは手を引っ込めた。ならばよし。


『なんか今日の女神様いいところなしだな』

『そうだな。今日もいいところなしだな!』

『そうだった、いいところなんて一回もなかったわ』


「いい加減泣きますよ!?」


 泣くつもりもないのに変なこと言ってるんじゃないよ。

 改めて。ピザだ。ピザっていいよね。特にチーズを増量したピザが好き。写真みたいにチーズがのびるのがとても好き。それこそピザだと思う。

 アスティが用意したピザは、ボクのお気に入りの店の、そしてボク好みのチーズ増量のピザだった。悔しいけど、さすが分かっていると言いたい。


「でも、ちょっと量が多すぎない? 三枚もあるんだけど」

「大丈夫です。残ってもあつあつのまま保存できます」

「マジかよ初めて女神らしいと思ったよ」

「わーい。……いや待ってくださいピザでその評価はちょっと悲しいですよ!?」


『ピザにしか利用価値のない女神』

『(ピザの)女神』

『すっげえくだらない女神だなw』


 いや、でも、本当にすごいよ。うん。ほんとほんと。

 ちょっと拗ねたアスティは放置して、美味しくピザをいただきました。




 昼食の後は、お待ちかね。誰のお待ちかねかはあえて言わないけど、お待ちかね。


「スキーだあああ!」


 両手を上げて叫ぶアスティ。なんでこいつ、こんなにテンション高いんだろうね。


「アスティ、スキーが好きなの?」

「いえ! 転んで雪玉になるリオンさんが見たいので!」

「ケンカ売ってんのか!?」


『草』

『そういうところだぞ邪神様』

『そういえばこの邪神、推しの曇り顔も悪くないって言った前科があったわ』

『やっぱり邪神じゃねーか!』


 言ってたね、そういうこと。間違い無く邪神だね。殴りたい、この笑顔。


「でもリオンさん。スキーやったことあるんですか?」

「あるわけないでしょ」


 引きこもりなめんな。スキーなんてアウトドアスポーツ、ボクがやるわけないだろうに。やったことあるスキーはゲームのスキーだけだよ。


「だからボクは初めての初心者。うまく滑れなくても仕方ないと思います」

「…………」


 無言ですっと指を指すアスティ。見たくないけど振り返るボク。


「ちょっと楽しいかも……!」

「スノボーというのもいいわね!」


 誰にも説明されてないはずなのに、ベテランのように滑るクレハちゃんとバーバラさん。ちなみにクレハちゃんがスキーで、バーバラさんはスノボーだ。

 なんであの二人、説明もなしに滑れるの? 意味が分からないんだけど。


『これが……探索者ってやつか……!』

『俺らみたいな駆け出しのなんちゃって探索者とはものが違うんやなって』

『運動神経がいいのか平衡感覚がいいのか』


 どっちも、じゃないかな。

 でもああして楽しそうに滑ってる二人を見ると、本当に楽しそうだなって思える。ボクもちょっと頑張ってみよう。

 早速スキー板を装着して……そうちゃく、して……。


「なんであの二人、付け方分かったの!?」


『いや草』

『がちってするだけなんだけどなw』

『見れば分かる』


「ばかにしてんのか!?」


『はい』


「むきー!」


『むきーを口で言うなw』


 ちくしょうぐれるぞ! ええい、こんなものは勢いで……。


「あ、はまった」

「ちっ」

「おいこらアスティ」


『女神様www』

『ちょっとは隠せよ邪神w』

『露骨に残念そうにすんなw』


 なんとなくだけど。多分うまく装着できないボクを見てにやにやしてたんだと思う。こいつ実はボクのこと嫌いだったりしない? だから嫌がらせするんじゃないの?

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