異世界の甘味

「それじゃ、早速だけど……。交流を深めるためにお店に行こっか」

「え」


 何故か、唐突にバーバラさんがそう言った。いや、意図は分かるよ。交流は大事だと思う。特にボクとアスティ、バーバラさんは多少なりとも面識はあるけど、クレハちゃんとは初対面だし。

 でもダンジョンに行くと思っていたから、ちょっとだけ拍子抜けだ。


『ダンジョンじゃないの?』

『忍者っこがどうやって戦うか興味あるのに!』


 もちろんボクも興味がある。でも……。


「あの……」


 クレハちゃんが、ボクの両手を握った。


「お互い何ができるか大事だから、お話、しよう? あと、もうちょっと仲良くできればなって……」

「う、うん……」


 え、どうしよう。この子、すごくかわいい。守ってあげたくなっちゃう。ボクの両手を握って、ほんのり頬を染めて……。最高かな?


「じゃあ、ついていきます」

「うん!」


 ということで、四人でご飯を食べられるお店に行くことになりました。


『うらぎりものー!』

『いやでもお前らなら耐えられるか?』

『かわいい女の子に両手を握られて、微笑み攻撃』

『耐えられるわけないだろうがいい加減にしろ!』

『つまり当然の結果……!』


 納得してもらえたようで何よりだ。

 四人でギルドを出て、バーバラさんの案内に従う。そうして向かった先は、ギルドから十分ほど離れた場所にある二階建ての建物。喫茶店らしい。砂糖をたっぷり使ったクッキーとジュースを出してくれるお店なんだとか。


「リオンちゃん、甘い物は大丈夫?」

「大好物です」

「それなら良かった」


『味覚まで女の子になってんの?』

『なんだあ、テメエ……』

『男にも甘いものが好きなやつは多いんだよ変な偏見やめろボケ』

『ご、ごめん』


 そうだ。もっと言ってやれ。この体になる前から、ボクも甘いものは大好きなんだから。

 喫茶店の中は、広い部屋に丸テーブルがいくつか置かれてる部屋だった。奥にカウンターがあって、そこで注文して料理をもらうらしい。

 クッキーの他にもサンドイッチがあるみたい。他の人のテーブルにあったから。

 ところで。


「女性客が多い……!」

「ちょうどいいでしょう?」

「う……はい……」


『一応は完全な善意なんだよな』

『気配りのできるバーバラさん、素敵やで』

『なお相手の中身は男です』

『それはリオンが悪い』


 ボクは何も悪くないと思うんだけど。あれかな、黙っているのが悪いのかな。それは許してほしい。さすがに中身は男ですと言っても信じてもらえる気がしない。

 カウンターで注文。クッキーとジュース。クッキーは味を選べないみたい。ただジュースはいろいろあるみたいで、オレンジとかりんごとかいくつかあるみたいだった。


「ちなみに、リオンさん」

「え、なに、アスティ」

「オレンジもりんごも、日本のものとは若干味が違いますので気をつけてください」

「あ、うん。了解」


 そうだよね。地球の果物は人間が食べやすいように品種改良をしてるけど、この世界の果物でそれをしてるとは思えない。

 そもそもとして。地球とは環境が違うだろうから、育ち方も違ってるだろうし。

 だからあまり期待はしないようにしよう。

 一人ずつ木のお盆を持って、近くのテーブルへ。アスティ以外はジュースとクッキーで、アスティだけはクッキーの代わりにサンドイッチを頼んでいた。


「なんでアスティはサンドイッチなの?」

「リオンさんが食べたいかなと」

「…………」


 それは……。うん。食べてみたい。

 ボクが何も言えずに黙っていると、アスティがほっぺたを突っついてくる。やめろ。


「それじゃ、いただきます」


 ボクがそう言って手を合わせると、バーバラさんとクレハちゃんも戸惑うことなく同じようにしていた。こんなところまで日本の文化が入ってるのか。本当にどうなってるんだろうね、この世界は。

 さて。とりあえずクッキーから。


「お……。結構美味しい」

「でしょ?」


 砂糖をたっぷり、と聞いていたわりにはものすごく甘いとは感じなかったけど、それでも甘すぎず薄すぎずとちょうどいいぐらいにはなってる。食感もさくさくとしていて悪くない。

 もちろん日本のものに比べると少し劣るけど、十分美味しいと思える味だ。

 ジュースは、オレンジジュースを選んだ。アスティが言うようにオレンジの味とは少し違って、酸味がかなり強い。でも、それでもオレンジと思える味だ。これも、まあ、悪くはない、かな?


「どう……?」

「うん。美味しい」

「よかった」


 クレハちゃんが聞いてきたのでそう答えると、嬉しそうに微笑んでくれた。クレハちゃんもクッキーをさくさくと食べてる。両手でクッキーを持って、さくさくと。リスみたい。


「あざとい。さすが忍者、あざとい」

「え?」

「いや、なんでもない」


『なんだこの小動物』

『あああかわいいよクレハちゃんくんかくんかしたいよおおお!』

『やばいぞアスティが増えた!』

『アスティが増えた、というパワーワード』


「え、私こういう風に見えてるんです?」


 アスティが思わず小声で反応した。見えてるどころか、まだこっちの方がましだよ。だって実害がないんだから。

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