クレハ

 たくさんの人が集まってる。五人ぐらいで集まって何かを話していたり、文字が書かれた紙を読んでる人たちがいたり。みんな探索者なのかな。

 新たに入ってきたボクにみんなが視線を向ける、ということもなく、それぞれ自分たちのことで忙しいみたい。ちょっとだけ安心した。アスティが色々やっちゃってたからね。


『いかにもな探索者さんばっかりやな』

『ダンジョンとか依頼とかやるんだろうなあ』

『いいな、この雰囲気。俺らも早くそこまで行きたい』

『そのためにはまずヒュージスライムだな』


 みんながんばるなあ……。ボクはもうヒュージスライムは見たくない。

 とりあえず扉から少し離れて様子を見る。扉の前でずっと立っていたらさすがに邪魔だなって思ったから。

 ボクと近い年代……見た目だけは若いから、若い女の子だとは思うんだけど……。


「リオンちゃん!」


 周囲を見回していたら、ボクの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。そっちへと振り返ると、妙齢の女性と女の子が立っていた。女性の方が手を振ってくれてる。というか、先日受付をしてくれた人だ。


「あ、あれ? 受付の人、ですよね?」


 とりあえず近くに行って聞いてみると、にこりと笑って教えてくれた。


「受付の方はアルバイトみたいなものよ。本来の仕事はこっち。そういえば自己紹介、まだだったわね。あたしはバーバラ。魔法使いよ」


 なるほど、魔法使い。赤いローブに大きな杖と、確かに魔法使いっぽい。ちなみに火の魔法が得意らしい。


「でもリオンちゃんに紹介したいのは、こっちの子」


 バーバラさんが自分の後ろに手を回す。そこにいるのは、いつの間にか隠れていたもう一人の女の子。十代前半に見える女の子だ。茶色の髪をポニーテールにしてる。少し目元に隈がある気がするけど、整った顔立ちでかわいい子だ。


「妹のクレハ。忍者よ」

「忍者!?」


『忍者!?』

『くノ一ですか!?』

『忍者キタコレ!』

『忍者服がかわいい!』


 ちょっとコメントがうるさい……!

 クレハちゃんの服装はいわゆる和服、黒い忍者服だ。下はスカートで、右太ももに小さなポーチをベルトで巻き付けてある。武器とかが入ってるのかも。肩から先の袖はなくて、代わりに手甲を装備していた。腰には短剣。

 うん。忍者だ。忍者だ……!


「おおお……」

「え……。なんだか震えてるけど、この子、どうしたの……?」

「気にしないでください。ちょっと感動してるだけなんで」

「なんで……?」


 そこ、アスティ、余計なことは言わなくていいです。

 いやだって、忍者だよ。忍者。いいよね忍者。ボクもなりたい忍者。かっこいい!


「でも忍者なのに忍ばないんだね」

「え?」

「え?」


『バカヤロウ! 忍者が忍んだら忍者じゃないだろ!』

『一騎当千の戦闘力を持つ者、それが忍者……!』

『ゲームの影響受けすぎだろw』


 確かに一部のゲームでは忍者がばったばったと敵を倒すから、この世界での忍者もそっちなのかも。というころは、このちょっと内気そうな女の子も、敵を皆殺しにしたり……?


「あ、あわわ、あわわわわ」

「つ、次はどうしたの? いきなりアスティさんの後ろに隠れちゃったけど」

「気にしないでください。発作です」

「発作言うな!」


『発作w』

『でもいきなり隠れるのは失礼』

『そこは年上の威厳を見せる時!』


 そ、そうだね。もっと堂々としよう。相手は女の子だ。やれ。いくんだボク……!

 アスティの後ろから出て、クレハちゃんに向き合う。クレハちゃんはじっと、ボクを観察するように見つめてきた。ちょっと恥ずかしい。


「あの……。ボクは、リオン、です。一応、魔法使い、です」


 言えた! 言えたよ! 自己紹介できた! 褒めて! 誰か褒めて!


『自己紹介えらい』

『がんばったなリオンちゃん』

『よしよし、すごいぞ!』


「えっへん」

「リオンさん、いきなりどや顔すると相手を困惑させてしまいますよ?」

「はっ!?」


『草』

『どや顔かわいかったですw』


 う、うるさいな! これも君たちのせいだ!

 改めて、クレハちゃんに向き直る。するとクレハちゃんも口を開いてくれた。


「あの……。私は、クレハ、です……。忍者です……。よろしく、お願いします……」


 うん。バーバラさんの後ろに隠れていたからそんな気はしていたけど、やっぱり内気な子みたい。今もちょっと恥ずかしそうにしていて、顔が少し赤い。

 とりあえず、あれだね。


「かわいい」

『かわいい』

『かわいい』


 みんなの心が一つになった気がする……!


「この子、ちょっと性格は内向的だけど、将来有望な子なのよ。探索者のランクもすでにC級なのよ」

「はあ……。ランク、とは?」

「え……。説明してなかったっけ……?」

「されてないです」


 バーバラさんは少しだけ頬を引きつらせて、ランクについて教えてくれた。

 探索者のランクは五段階。上から、A、B、C、D、Eとあるらしい。Eが登録したての人で、Dが一通り探索者の知識を身につけた人。Cは探索者として一人前扱い、らしい。

 Bはベテラン、Aは何かしら一芸に秀でた人、という扱いみたいだね。


「つまりは、いつものだね」

「はい?」

「なんでもないです」


『はいはいいつもの』

『ていうか現地の人にいつものって言うなw』

『俺らにしか伝わらないから!』


 次から気をつけます。

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