閑話


 あの時からどれだけの時が過ぎたのでしょうか。

 私があの子と語り合ったのは、もう遙か昔のことです。まだ言葉という概念もなく、ただ私はあの子と意志を交わすだけでした。

 とても希薄な、けれどちゃんと意志を持った存在。まだ生まれたばかりの星にそれがいることが珍しくて、私はたくさんそれと語り合いました。

 その子は生まれたばかりで、だからこそ純粋で、無垢で。私は私という存在を確立させてからのんびりと世界を作っていましたが、こうして語り合うことがこれほど楽しいとは思いませんでした。

 不思議ですね。知性ある命はほかの星でも生まれていたのに、こうして語り合うことは初めてだったのです。


 のんびりと世界を造りながら、その子と語り合う。それのなんと楽しいことか。

 そうしてその子と語り合っていたら、未来の自分から不思議な伝達がきました。一つ惑星を作らなければならないと。最重要案件、とまでされていて、未来に何があるのか不思議に思いながら、私はそれに従い世界を作りました。

 そうして、とても楽しい日々を過ごしていたのですが。

 それも、終わりがきました。

 語り合っていた子が、消滅しかけていました。何かあったわけではありません。ただ単純に、寿命でした。


 もちろん私の力ならば、その子を不老不死にすることなんて簡単です。ですが私はそれをしませんでした。理由は単純で、その子がそれを望んでいなかったから。

 だから、その子が消えるその時まで、私はその子と語り続けました。

 そうして、気付けば、終わりの日がやってきて。

 その子は私に対して言いました。

 ありがとう、とても楽しかった。次があれば、また遊ぼう。

 その言葉を最後に、その子は消滅してしまいました。

 ああ。ああ。私はその時、初めて喪失というものを知りました。私はその子を何よりも大切にしていたのだと、失って初めて気付きました。


 しばらく虚無の日が続き、ただ惰性で世界を造り続けていると、それに気付きました。

 いつの間にか生命があふれる星になったその場所で。小さな、死にかけの恐竜がいて。その恐竜の魂は、あの時語り合ったあの子と同一でした。

 魂の輪廻。あの時の私は、よほどその子が惜しかったのでしょう。知らず知らずのうちに、そんなシステムを作ってしまっていたようです。

 それからの私は、あの子の魂を探し続けました。ですが、この世界に命はたくさんあります。この惑星以外にも、命はたくさんあるのです。その中から、あの子の魂だけを見つけ出す。それがどれだけ難しいことか。


 それでも、私には時間があります。いつかこの宇宙が消えてしまうまで、私という存在は続くのです。それまでに見つけられれば……。でも、できれば、早く見つけたい……。

 そうして探し続けました。もちろん、何度か見つけたことはありますが、そのどれもが、すでに死に瀕していました。

 無理矢理助けることは可能です。ですがそれを、あの時のあの子は求めていませんでした。だから、そういった時は私は静かに見送りました。

 探して。探し続けて。地球に人類があふれてきて。

 そこでようやく、私はその子を見つけたのです。


「はーい。それじゃ、今日も配信するよー」


 その子は自分の部屋で、配信というものをしていました。どこか陰のある表情で、けれどとても楽しげに、ゲームというものを遊んでいます。

 一人で遊んでいるのかと思えばそうでもなく、どうやら顔も知らない誰かと話しながら遊んでいるようです。

 また語り合いたい。今すぐ話しかけたい。そんな気持ちがありましたが、ぐっと堪えました。

 今のこの子は、私のことを覚えていません。新しい命として生きています。ただ、魂が同一なだけ。きっと性格も違うでしょう。

 けれど。この子は確かに、私の無色な生に彩りを与えてくれた子でした。


 私はしばらく見守ることに決めました。人間が使っているパソコンというものを用意し、その子の配信を視聴します。

 少し調べれば、この子は昔、同じ人間からいじめられた経験があることが分かりました。その不愉快な人間に神罰を下して、その後も視聴を続けます。

 とても明るい、楽しい子です。辛いことも多くあったでしょうに、楽しげに遊ぶのを見ているだけで元気がもらえるようです。

 他の視聴者もそれがあるのでしょう。特に何か目立った特徴がある配信でもないのに、一定数の視聴者はいました。


 さて……。私も、そろそろ行動に移しましょう。またあの子と遊びたいですから。

 まずはあの子の趣味を調べて……調べて……。…………。わあ。

 机の中にしまってある薄い本。なるほどこれがあの子の趣味。へー……。

 あとは、ちょっとあの子の欲を調べて……調べて……。…………。女の子になってみたい。ほー……。いえ、いいですよ? それもいいでしょう。うん。

 それでは、いってみましょう。


「ひとめぼれしました、と……」


 自分でもめちゃくちゃな理由です。ですが、それしか言い方がありません。気付けば私はあの子に惹かれていたのですから。もちろん、今のこの子にも。

 そうして、その子と、リオンさんと話して、願い事を聞いて。

 ようやく私は、未来の私がなぜあんなことを、ダンジョンのある惑星を依頼してきたのかを知りました。全てはこの時のため。

 私はすぐに取りかかりました。惑星の仕様をまとめて、言語の情報もいれ、ありとあらゆる情報を詰め込み、過去の自分へと送ります。その内容は、私が受け取ったものと完全に同一でしょう。

 そうしてから、私はリオンさんが住む場所の近い場所に、ダンジョンの入口を作りました。いろんな情報をつめこんで、完成です。リオンさんは喜んでくれるでしょうか。


 それでは……。この先が楽しい日々になることを願って。リオンさん、たくさん遊びましょう。

 明日も。明後日も。来月も。来年も。

 ずっと、ずっと。遊びましょうね?

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