第20話

 楽しみにしてくれている、と聞いて喜ばない人間は居ないだろう。恐らく。

 ともあれ、いずれにしてもマリはいつもと変わらない様子を見せているようだった。とても何よりと言って差し支えないだろう。


「そういえば、ここに来たのは何か理由があってのことなの?」


 マリは単刀直入に質問を投げかけた。

 そりゃあ疑問に思うのも致し方ないだろう。妹は実家に帰ってきやしないのだから、わたしからしてみれば滅多に出会うことのない親族のうちの一人だ。一応メッセージアプリでそれなりにやり取りを交わしているとはいえ、だ。


「……実は、とある組織を追っていてね。ここで警察をやっている妹に助けてもらおうかな、って」

「そんなこと言っても、こっちには守秘義務ってものがあるからね? 幾らきょうだいであったとしても、言って良いことと悪いことの分別ぐらい——」

「ネオワールド」


 わたしの言葉に、マリの顔は少しだけ引き攣った。


「その名前を知らない——訳はないでしょう? このメガフロートに居るとされる、反ヒューマニティ組織のことを」

「何を探そうとしているの?」

「ここでは話せない」


 何せ、今居るのは空港の真ん前だ。

 観光客やらビジネスマンやら、様々な人間が右へ左へと歩いている。


「……ともあれ、話しやすい場所が良いな。持っている手札についても説明しておく必要があるだろうからね」


 そう。

 わたしは未だ預け荷物でここまでなんとか持ってきたどデカいスーツケースの中身について、一度もマリに開示していないのだ。

 マリは小さい溜息を一つだけして、


「ついてきて。良い場所を知っているわ」


 そう言って、踵を返しスタスタと歩き始めた。

 一応こちらは大きいスーツケースを持っているのだが、少しぐらいは考慮してくれないものか——などと思いながらも、こちらの我儘を聞いてくれている以上、若干は致し方ないと思いつつ、マリについていくこととするのだった。


  ◇◇◇


 マリに連れられてやってきたのは、空港裏手にあるショッピングモールだった。人があちらこちらに居るものかと少しばかり不安に思っていたが、そんなことはなく人は疎だ。


「……如何して?」

「ここって、所謂観光地とはちょっと違うところなのよね。観光地はもっとバスとかレンタカーとかモノレールを使うと行けるのだけれど、ここはあまりにも近すぎる。まあ、最近は穴場スポットとか言って宣伝しているところもあるにはあるけれど。それでも、人が少ないのは間違いないから」

「秘密の話をしても、気づかれることはない、と?」


 それでもフードコートとかに行くと、それはそれでどうかと思うけれどね。


「一応、念には念を押して個室付きの店に行くよ」

「あれ? 声に出ていたかな」

「顔に出るのよ、お姉様」


 冷酷な発言。

 或いは、親切に教えてくれたとでも言えば良いのだろうか。

 それはそれとして、マリに連れられて入ってきたのは珈琲店だった。珈琲店と言えば、テーブルとカウンターがあってそこそこオープンなイメージがあったけれど、入ってみると個室がずらりと並んでいた。

 個室に案内されるとタブレットが一つテーブルの真ん中に置かれている。


「……成程ね、これなら完全個室も可能か。なんというか、情緒がないというか……」

「こればっかりは如何しようもないと思うけれどね? 世界的に人口の過渡期は過去のものであると言われているのだし。戦争も紛争も多く繰り広げられてきた結果、ついに出生率が死亡率を下回ることも多くなってしまった、と言うのは国連も取り上げていたでしょう?」

「そんな話もあったような気がするな……。何だか寂しさも感じるけれど。人間というのは、これから何処に向かっていくのやら?」

「さあ? 成長をこれからも続けていくかもしれないし、ある日突然滅亡するかもしれないよ? この世界には様々な時限爆弾めいたものがたくさんあるのだし」

「……何だか急に悲観的な未来を言い出したけれど、何かあった?」

「いいや? でも、ここで暮らしていると色々と見えてくるものだよ。表向きは、全世界に開かれた平和の象徴、みたいなところがあるけれど——場所ということだけを考慮するならば、ここは不安定でしかないよ。アメリカが介入しているからなんとかなっているようなものでもあるけれど。世界の警察と言われたアメリカは、今も強いからね。今度の大統領もそれを継続するようだし。まあ、もう戦争して領土を広げようという時代は終わったことだしね」

 

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ヒューマニティ:That "Device" is gift from god, or not. 巫夏希 @natsuki_miko

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