ヒューマニティ:That "Device" is gift from god, or not.
巫夏希
Chapter.01: Lots of suicide case
第1話
この話は、わたしの後悔。
或いは、わたしの未来。
或いは、わたしの過去。
いや、そのどれでもないのかもしれない——。
◇◇◇
百万人。
五十年以上前に提示された、あるデータだ。
それは、全世界で自殺する人間の数。
ただ百万人も死んでしまうのなら、人類の数は減少の一途を辿るだろうけれど、現実は違って、死んだ百万人よりも多くの人間が生まれている。こうして世界は人口を増加させている。
出生率よりも死亡率が低いから、世界は自殺を大した話題と考えなかったのか、と言われるとそうではない。自殺は自らの命を絶つことであり、それ以上でもそれ以下でも無い。宗教で禁止されているかと言われればそれは宗教によって大きく異なる。確かに全面的に禁止している宗教もあれば、寧ろ生贄として奨励している宗教もある。
人間の倫理観など、所詮宗教に振り回されるものだ。
宗教とはいったい何であるか――という質問の答えについても、人々が全員同じ答えを得ることなど、まあ、先ず有り得ない。結局、人間の感性も人間一人ひとり固有のものであり、それを押し付けようということ自体が烏滸がましい行為にあたるのだろうから。
◇◇◇
とあるビルの屋上で、一人の少女が今にも足を踏み外し——その人生を終えようとしている。
人生はつまらないものだった。
人生は終わらせたいものだった。
人生など終わらせてしまうべきだった。
だから、彼女は足を一歩踏み出そうとして——。
「はい、そこまで」
気付けば、彼女の隣には一人の女性が立っていた。
いや、それだけではない。彼女の腕を思い切り掴み、離そうとしない。
「いや、いや……。どうして、死なせてくれないの……! 放っておいてよ」
「いやあ、それがそうもいかないんだよね。知っているでしょう? 『デバイス』から検知されたからね、通常の心拍数とは大きく乖離するデータが継続している、と。それに位置関係を照らし合わせると、今から自殺しようとしている。そうなると、止めなきゃならない。これが今の世界だ」
「……犬」
「うん?」
「犬、犬よ! あんたらは、人工知能の——ヒューマニティの犬なのよ」
そう言われて、女性は笑えなかった。
だけれど、しっかりと頷いた。
「それが仕事だよ……この時代の『警察』の、ね」
◇◇◇
西暦二〇三〇年代の後半、世界は多くの問題を一気に解決すべく、全人類への『デバイス』を提供した。デバイスはいわゆるスマートウォッチぐらいのサイズで、それを用いることで様々な情報を管理してくれる。既にスマートフォンやスマートウォッチで人間は数多くの情報を牛耳られているのだから、別に気にしなくて良いのかもしれない。
そして、それはあっという間に普及して、人々はスマートフォンと『デバイス』を連携するようになった。
デバイスには人工知能が搭載されている。装着している人間の血圧や脈拍など、様々なデータを解析して最適な解を導き出す。しかしながら人工知能はそれだけの存在であり、手足を持たない。だから、最初は人間にアドバイスをするだけだった。それだけならば、可愛いものだった——はずだ。
『デバイス』のデータを自動的に研究機関のサーバーに送るようになったのは、それから一年後のことであった。デバイスを活用することによって、人々の健康寿命が格段に延びたという研究結果を基に、彼らはデバイスのデータをビッグデータとして保有することになった。
研究機関は直ぐに全世界の人類から集められたデータを元に、一つの巨大な人工知能を作り上げ、『彼女』こそが最も人間に近い人工知能であると提言した。
その名は、ヒューマニティ。
人間性、という意味だ。
人工知能にそのような名前を付けることは、若干の皮肉も混じっているのかもしれなかったが、しかしながらヒューマニティはどんどん人々の生活へと入り込んでいった。
ヒューマニティは、最早人間とは切っても切れない存在だ。
……ただまあ、少々立ち入り過ぎな感じもするのだけれどね。
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