知多海岸線殺人事件

羽弦トリス

第1話プロローグ

「えぇ〜、この殺人事件の特徴は、犯人が殺人を起こした後に、第三者が偽装する特殊な事件で、えぇ〜男性でなければ死体を運ぶのは至難の技ですが……」

愛知県の知多半島にある、知多大学で講義しているのは、現役刑事の黒井川警部。

法学部の学生の前でハンドマイクを持ちながら講義している。

席は殆ど埋まっており、人気の講義となった。

この講義は1週間の日程。

午後からは、黒井川警部のワトソン君の戸川医師が法医学の講義をしている。これは、県と大学が連携して、犯罪者の若年化に伴い講義が実現されたのだ。


愛知県の一部では、黒井川警部と戸川医師のコンビで数々の難事件を解決してきたのが有名だ。

初めての2人の出会いは、戸川医師の勤務先の尼ケ坂病院での連続殺人事件であった。

その後、戸川医師は転職して検死官として働いていた。

黒井川警部45歳、戸川医師40歳。

彼らが宿泊しているのは、知多半島の立松市にある、旅館「千寿」。

2人は風呂に入り、夕ご飯は外で食べた。

知多は海の幸が豊富である。

宿泊初日に戸川医師(以後ワトソン君)が、スマホで発見した、居酒屋「まさき」に行くと、安価で新鮮な魚の刺し身と地酒に出会い、連日「まさき」に通った。

店の店主は平岡利樹と言うが根っからの板前で、黒井川らが美味そうだ。と言う度に板場から笑みを浮かべた。

そこの娘の、平岡真美が知多大学の学生であった。

「お母さん、こちらのお客様は黒井川警部とワトソン君」

と、言うと真美の母親の厚子が、

「娘が先生方の講義が面白いといつも言ってるんです」

と、2人に話しかける。

「そうですか。話す分には問題ないですが、事件現場は凄惨ですからね。な?ワトソン君」

「はい。たまに脳みそが出ている死体もあります」

と、言うと

「うちの真美は、愛知県警が第一志望なんですが……」

黒井川はわさびをたっぷり乗せた、鯛の刺し身を食べながら、

「中々、優秀ですね」

と、言った。

平岡母娘と話していると、板前の利樹が黒井川らに、

「今日、仕入れたサヨリです。いつも、刑事さんの話しを楽しみにしています」

と、言ってまた持ち場に戻った。サヨリの刺し身は最高に美味かった。

「しかし、女将さん。この店は毎晩繁盛してますね」

と褒めたら、

「ライバル店はありますが、うちの主人の潮汁うしおじる目当てのお客様が多いのです」

「是非、シメに頂きたいものです。な?ワトソン君」

「はい。僕もこの海辺の街の、自信作を頂きたい」

と、ワトソン君がサヨリを食べながら言うと、

「お母さん、今、潮汁出したら?」

と言う。

すかさず黒井川は、シメにと言った。


暫く、黒井川とワトソン君は地酒を飲みながら、翌日の講義の話をした。

黒井川の安物のG-SHOCKは、22時を少し回っていた。

真美は21時には店舗兼自宅に戻り、母親の厚子に潮汁を注文した。

出て来たのは、鯛のアラとアサリが入っており、ほんのりと塩味だが出汁が出ていて絶品だった。

人間は、ホント美味しいと無言になる。

2人で飲み食いしても、1万円以上にはならなかった。

ワトソン君は旅館から、懐中電灯を持ち出し帰宅途中歩く道を照らした。

厚子に明日もお願い致します。と言うので2人は明日も行く事にした。

兎に角、田舎だ。街灯が無い。

暗闇を2人は15分歩いて「千寿」に戻り、2人して大きなイビキをかいて寝た。

水曜日までは、何事も起きない平和な日々であったのだが……。

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