ダンジョン攻略専門家は今日もダンジョンを攻略する~ダンジョンある所に『SOCIUS』現れる~

光影

第1話 未来ダンジョン ―― The dungeon(地下牢)


 今『SOCIUS』の株は絶好調だ。


 インターネット上で囁かれるその名はダンジョン界において最も注目されている。


 セントラルパーク株式会社のダンジョン開発スタッフが作った難攻不落の事実上クリアできないはずのダンジョンを攻略したからである。


 当初はゲーム開発スタッフが面白半分で架空の噂を流したか、本当はクリアできる抜け道があったのではないかと多くの者が疑い信じなかった。


 だが、どれだけの月日が経過しても難攻不落のダンジョンクリア報告は聞かない。

 ならば嘘の噂話かと考える者がいたが、それはありえなかった。


 『SOCIUS』のアカウントデータに残された記録映像。

 『SOCIUS』本人が一般公開している映像でそこには通称難攻不落城とされる――魔宮ダンジョン攻略の一部始終が写っていたからだ。

 全五階層で構築されるダンジョン。

 その三層目で多くの凄腕プレイヤーが足止めされほんの一握りのプレイヤーが四層目にいけるもやはりそこで足止め。

 だが 『SOCIUS』が一般公開している映像は誰もが見た事のない場所での攻略映像。それはゲーム開発スタッフが五層の映像であることを公式で認めた。これが『SOCIUS』の伝説が生まれた瞬間だった。



 ■■■


「なんか面白くないよな……最近……」


「だね~てか普通に考えて自分たちがクリアできないから難攻不落とか止めて欲しいよね~」


「あぁ。普通に攻略法あったからな」


「でもよくあの隠しダンジョンスイッチ見つけたね、うふふっ」


「おい。俺がブービートラップ踏んで転んだあげく落とし穴に落ちたの遠回しにディスてるだろ?」


「そんなことないよ、うふふっ」


 と、一般公開した映像の一部始終ではなくフル映像を見て改めて奇跡的なダンジョン攻略ができた様子を巨大ディスプレイを使って見つめ直す二人の男女はソファーに寝ころびながらポテトチップスを頬張りながらコーラを飲むのであった。


 ズルル、むしゃむしゃ、ズルル、むしゃむしゃ、ズルル――。


 幼馴染の田村理紗に空いている手でわしゃわしゃと頭を触られからかわれる野崎刹那はムスッとするもスルーされる。幼馴染で異性として密かに意識している相手だからこそ構ってくれて嬉しい気持ちと格好悪い姿を見られて恥ずかしい気持ちが交差して心の中でモヤモヤが生まれたからだ。


 家に二人きりとは言え十六歳の女の子が男の家で膝上スカートで寝ころび足をバタバタさせ薄着一枚とは無防備過ぎるだろう。大きな胸が顔を出し、思わず触りたくなるような柔らかさと弾力で持ち合わせた谷間につい視線が誘導されてしまい、理性が溶けそうになるからだ。

 思春期男子高校生(仮)である野崎としてはもう少し目のやり場を考えて欲しい気持ちとこれはこれで最高と相反する気持ちがまたしても心の中でぶつかりモヤモヤしてしまう。


「それにしても時代は進化したよな。こんな板直視するだけで意識を仮想世界に飛ばしてリンクさせるとか」


 野崎が言う板とはスマートフォンのことで二人にとってはデバイスであり仕事道具でもある。


「だね~、それで今日の予定は?」


 既に興味がないのか巨大ディスプレイで再生される攻略映像ではなくスマートフォンのメモ帳を立ち上げ今日の予定を確認する野崎は高校生でありダンジョン攻略専門のスペシャリストでありプロでもある。着色しないならイジメられ不登校になった男とそれを機の毒に感じた同じく訳あり不登校の二人組である。


【人の才能なんて学校に行かなくても努力すれば開花される】


 と、言うのが二人の持論。


「新作ダンジョン攻略。ってもテストVer.だし一人で行くつもりだ」


 ふ~ん、とわかっていながら適当な相槌で反応する田村は野崎の意識が自分からスマートフォンに向いたことで少しご機嫌斜めになったのか、さっきまでニコニコと微笑んでいた顔から表情が消える。


「ねぇ?」


「なに?」


「……ねぇ?」


「どうした?」


「……ねぇ? ってば!」


「……だからどうしたんだ?」


「暇!」


 ザクッ。


 田村の長い爪が野崎の頭に刺さった。


 もぞもぞと動き身体を近づけて野崎からスマートフォンを奪い自分の方へ強制的に視線を向けさせる田村はあざとい。


「いてぇ!」


 にこっ。


「にこっ。じゃねぇ!」


「ならぁ~てへぺろ?」


 片目を瞑り舌を見せる田村。


「そうでもねぇよ! てかしらねぇよ! 人のミスを弄ったあとは暇って! 俺にどうして欲しいんだぁ!?」


「私を置いて一人ダンジョン攻略仕事って幼馴染をなんだと思ってるの?」


「逆に仕事のメールを見ようとすらしない理紗にどう仕事を任せろと?」


「…………。いじわるぅ!」


 フグのように頬っぺたを膨らませた田村からスマートフォンを取り返す。

 二人の収入源がダンジョン攻略である以上ダンジョン情報は命の源となっているわけだが、それを面倒くさいの一言で片付ける者に野崎は頭が痛くなった。彼女の本領が頭脳であると言うことを考えれば……。


「あっ……!」


 野崎に釣られるようにして起き上がった田村は身体を引っ付けて座る。


「いいよ」


「……えっ? 付いて来るつもり?」


 うん、と頷く田村。

 セントラルパーク株式会社から配布されるダンジョンミッション。

 懸賞金が掛けられる項目の一つで難易度は懸賞金の額によって変わるが、レベリングを必要としたダンジョン攻略や謎解きダンジョン攻略やその二つを掛け合わせたダンジョン攻略、探索しゲットしたアイテムで懸賞金が決まる換金型のダンジョンなど多種多様なダンジョン攻略でユーザーを楽しませてくる。今回野崎が一人で挑戦しようとしていたのは制限時間内にダンジョン最奥のボスモンスターを倒せばクリアのレベリングを必要としたダンジョン攻略である。


「テストVer.だしすぐ終わらせてゴロゴロイチャイチャしよ?」


「良し! 乗った!」


 セントラルパーク株式会社から事前配布されたメールに添付されたURLを開いた瞬間二人の意識は仮想空間で作られた世界の中へと飛ぶ。


 直前。


「……ちょろくて、可愛い」


 と、見え見えのハニートラップが成功して喜ぶ者が居た。


 ログインして二人が目にした光景はなんとも簡素な。

 期待していたの物とは違う、シンプルな『The dungeon(地下牢)』ステージ。

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