#5

 例えば人それぞれに運命があるとして、その結果に導かれる人生のレールが敷かれているなら、俺の人生は残念ながらクソゲーだ。


 理解されないであろう性癖に、勝ち目のない恋愛ごっこ、そこに拍車をかけて萎えるほどの重たい愛情。その捌け口なんて何処にも見つかることはないわけで──。


「……ないわぁ」


 独り言のように呟いた俺は、少し前を歩く翔太の後頭部を眺めて苦笑いする。


 ふんわりとした柔らかそうな髪が揺れる程よい丸みを帯びた頭の形、男にして華奢で狭い肩幅、弾むような癖のある歩き方……翔太は出会った当時と何も変わらない。


「なぁ修也」


 突然立ち止まり俺の名前を呼んだ彼は、そのまま顔だけこちらに向けるように振り返ると、悪戯っぽい表情を浮かべる。


「何?」

「修也ってさ、好きな子居るん?」


 恋バナ好きの女子が乗り移ったように笑う翔太の目には、好奇心に仄暗い何かを足したような複雑な色が浮かび、俺は思わず息を呑む。


「ま、まあね」

「誰?」

「さぁ」

「僕の知ってる人?」

「……どうだろ」


 ズカズカと感情を蹂躙していく彼は、暫く俺を頭のてっぺんから爪先まで舐め回すように視線を向けた。


「何だよ……急に」

「いやぁ?修也は僕の彼女を知ってるのに、僕には好きな子を教えてくれないんだなぁーって」


 能天気な声とは裏腹に棘を帯びた言葉を放った翔太は、「まぁいいけどね」と前に向き直る。


 ──言ったらお前は逃げるんだろ?


 前歯で噛み砕いて飲み込んだ感情が逆流して、俺はうっかり言葉を吐きそうになって口を押さえた。


 ──駄目だ……これは愛じゃないんだ。


 『愛』なんて清らかな纏まりでは片付けられないほど煮込まれてドロドロになったソレを形容できるのは、きっと『執着』に他ならないから。


 もしも許されるなら誰の目にも触れず、誰の耳にも届かず、誰の鼻を掠めることなく、誰にも味わわれないように、大事に鳥籠に閉じ込めて俺だけのモノになって仕舞えばいいのに──。


 脳内で渦巻くドス黒い思考から意識を取り戻すと、「修也?」と心配げに眉を下げる翔太が映る。


「ごめん……少し考えごとしてた」


 適当な言葉で取り繕った俺は、あのタロットの『悪魔』そのものに他ならなかった。

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