#4
「じゃあ今度は松田君……松田君は……」
結局翔太の恋愛事情をしっかり聞き逃した俺は、呑気な女子軍団に連行されるように正面の椅子に座り込む。
たかが占い、それっぽい事をいって揺さぶれば心当たりの一つや二つぐらいは出てきて当然だ。
ある種の開き直りをこの短時間で習得した俺は、さっき翔太が聞かれてたみたいに差し出された直感でカードを選んでゆく。
「ほほう……過去が『愚者』の逆位置、現在が『悪魔』、それから……未来が『運命の輪』かぁ!」
まるでスポーツの実況解説でもするように喋り出した連中はニンマリと口の端を吊り上げて笑うと、「松田君って結構真面目だよねぇ」と言葉を零す。
「真面目……何が?」
「『愚者』は基本自由奔放で、無邪気とか、ポジティブな印象なんだけど……松田君の場合は逆位置だからかなり真剣に悩んでて、恋愛に対してあんまりいい思いは無いのかなぁって」
エセ占い師がうーんと唸りながら放った言葉は、見事に俺の心中を見透かしているようで少し気味が悪い。
「へぇ」
「焦りとかイライラとか、はたまた落ち込み?……まぁなんにせよ前向きではないよね」
無意識に放たれる鋭利な言葉の矢が、まるでグサグサと音を立てて突き刺さるように痛い。
「まぁでも、それは過去の話──と言いたいところだけど、現在が『悪魔』かぁ……」
少し勿体ぶる喋り方が鼻につくが、俺はカードの絵柄からしても不気味で印象的なカードの意味が語られるのを静かに待った。
「束縛、堕落、それから誘惑……カードの悪魔が鎖で男女を支配してるでしょ?それとおんなじで、松田君には独占したい人がいるんじゃない?……それも、ちょっと危険なレベルで」
『独占したい人』──。
心当たりならびっくりする程あり過ぎて上手く言葉にもならない俺は、「さぁ」と紛らわすような悪態しか吐けない。
嫌な汗が背中をつつつ……と伝う感覚だけが妙に生々しくて、無性に喉の渇きを覚えた俺は代わりにもならない生唾を飲む。
いや、渇いているのは喉じゃない。
血に飢えた獣のような俺は、きっと願っても手に入らない愛情に渇いているのだ。
周りに悟られぬよう俺はそっと目を伏せて翔太を盗み見ると、彼は何とも言い難い表情でカードを眺めている。その目はいつもの愛らしさが潰え、まるで狼が獲物を狙う時のような鋭い眼光にすり替わっていた。
「……その続きは?」
本能的にその視線で肝を冷やした俺は、エセ占い師に縋るようにタロットの説明を促すと、「ノってきたねぇ!」と勘違いも甚だしい返事が返ってくる。
「ええっと……未来は『運命の輪』!さっきとは打って変わっての大吉だよぉ〜」
「大吉……?」
「そうそう、転換点とか幸運の到来、チャンス……どれもいいことずくめだから、きっと松田君にもいい事あるよ!」
若干慰めにも近い言葉で散々に惨めな気分の俺は、「……はいはい」と手をヒラヒラさせて話を切り上げた。
「あー、信じてないでしょ?……確かにタロットはフィーリング次第で違う解釈にもなるけど、都合の良い所だけでも信じた方が得だってぇ!」
唇を尖らせて拗ねた女子群から「帰る」と逃げ出した俺の背中に、翔太の足跡が聞こえる。
「本当、修也は愛想が悪いなぁ……そんなんだと、運命の女神様に見捨てられちゃうよ?」
「はぁ?……そんなの居ないだろ」
「居るよ」
ハッキリと俺の目を見て言い切った彼の瞳に映る俺が、翔太の一挙手一投足に一喜一憂している事実を呆れた表情で見つめ返していた。
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