乙女ゲー世界に転生したけど、冒険者として最高のハッピーエンドを目指したい!

エイト

第1話 アルス王国

冒険者っていう職業は命賭けだ。魔獣、魔物の退治に加えて迷宮探索も並行して行う。その彼等の活躍で平穏を暮らせる人たちが生まれる。


その影響で王都に住んでいる人たちの顔は明るく、どこか活気に溢れていた。街の王道と呼ばれる場所には、たくさんの店が立ち並び、夜になると飲み屋が綺麗な明かりを作る。


ここが王都『アルス』と呼ばれる、世界で最も恵まれている都市だった。


「……やっぱり、ゲームで見るのと全く違うな」


俺はポツリと呟いた。乙女ゲーム『七色の冠』という人気ゲームがあった、RPGやら色々な要素が組み合わさって作られているゲームだ。


学園に通いながら冒険を行って、魔物を生み出している『魔王』を討伐することが最終目標だったっけな。


重要なキャラでも攻略キャラでも死ぬことが多々あり、鬱ゲーの要素も兼ね備えている。ゴブリンやらオークやらも登場する、あとは分かるな?


「おい、兄ちゃん!うちの焼き鳥はどうだい、一本60マニーだよ!」

「あ、じゃあ貰います」


思わず立ち尽くして店を観察していたら、おじさんに催促されてしまった。とはいえお腹は空いているので、財布を開いて買うことにした。


マニーというのは全世界共通のお金だった。女神様の顔が彫られたコインを取り出して、おじさんに手渡した。


すると一本だけ買ったはずが、二本も手渡してきたのだ。


「兄ちゃん、新しく王都に来たんだろ?サービスしてやるよ」

「あ、ありがとうございます!」


なんと優しいおじさんだろうか。これからはおじ様と呼ばせていただかないと。俺は焼き鳥を貪りながら、思わず目を見張った。


柔らかく、噛めば噛むほど味が出る。前世の焼き鳥とは全然違う感じがするのは、どういうことだろう。


「魔獣の肉だよ。冒険者が討伐した魔獣の肉を買い取って使ってるんだ。冒険者にも人気な一品さ」

「魔獣の肉って、こんなに美味いの!?」

「まあ、そこは俺の技術よ!」


故郷で何回か魔獣は食べたけど、こんなに美味しくはなかった。故郷には塩だけしかなかったから、仕方ないのかもしれないけど……。


「もしかして、兄ちゃんは冒険者に?」

「そうそう!爺ちゃんが冒険者になって、名を残してくれって」


爺ちゃんってのは俺の育ての親だ。血の繋がりはないけど、色々あって天涯孤独の身だった俺を育ててくれた恩人だ。


剣やら食事やら。本当に俺が足を向けて寝れない人である。そんな爺ちゃんの願いもあって、俺は名を残しに王都に来たんだ。


俺自身、冒険者には前世から憧れていた。仲間と強大な敵を撃ち倒す展開など、大好きだったのだ。それを実際に行える日が来るとは思いも寄らなかったけど。


「それじゃあ、未来の冒険者の活躍を願って、もう一本おまけしとくよ」

「本当!?ありがとう!」


焼き鳥をもう一本サービスしてもらった。なんて優しい人なんだろうか、ますますやる気が溢れてきたぞ。


王都はやっぱり広いな、人通りも多いし、迷子にならないか不安だ。


原作では王都の中心部にギルドがあったはずなんだけど、前世の記憶が曖昧で心配だ。


しばらく歩けば立派な建造物が目に入った。荒くれ者の冒険者が行き合う、冒険者専用の施設。


冒険者ギルド。これを実際に目にすることが出来るとは感動ものだ。


「……な、なにか緊張するなぁ」


とりあえず中に入ってみることにした。ギルド内は冒険者らしく武器を持った人たちがたくさんいる、珍しいことに全身を鎧に包んでいる人もいるくらいだ。


こんな真夏なのに暑そうで、少し同情する。さて、俺は冒険者ギルドの受付があるところに向かった。


「冒険者登録お願いします!」

「はい、では用紙に名前と年齢、そして希望職業を記入してください」


美人の女の人は冷たく言い放つ。想像していた受付嬢とは違ってたけど、それが好きな人もいるだろう。俺はちょっと苦手かもしれない。


渡された用紙に『アルク』と名前を記入する。なかなかにイカした名前だろう?これも爺さんが付けてくれた名前だった。


年は一五歳。この世界では成人の年齢だな、冒険者には成人していることが前提条件だ。魔獣やら魔物などを相手に戦う仕事は死と隣り合わせだからな。


「クランなどに所属する予定は?」

「とりあえずはソロの予定です」


クラン。冒険者が作る迷宮攻略を目指して作り上げられるチームのことだ。


迷宮攻略には人数が必要になる。その人数を集めるために作られるのがクランって感じだな、人が多くなる分ルールとかもあるらしい。


ゲームの世界ではなかった要素だ。


「では、こちらを」


慣れた様子で机に置いたのは、一枚のカードだった。何かしらの鉱石が使われている、冒険者の身分証明書だ。


ゲームでは『ステイタス』を確認出来たりする、冒険者には必要なアイテム。


「その冒険者カードに血を垂らしてください。そして名前に偽りがないか、調べますので」


渡されたのは針だった。自分の指を刺すのって、めっちゃ怖いんだけど。受付嬢さんの圧を感じつつ、指に針を刺した。


そのまま冒険者カードに血を押し付けたけど、こんなんで本当に『ステイタス』とか見れるようになるのだろうか。


半信半疑だったが、徐々に名前が浮き上がってくる。異世界って感じがしてきて、少し興奮してきた。


『アルク』

職業→剣士レベル1

破壊力→G

耐久力→G

敏捷力→D

技術力→F

魔法力→G


カードに書かれている能力値。それを見て目を輝かせる、異世界といえば『ステイタス』だよな。これが見たいがために冒険者になったまである。


能力は五段階に分けられている。ゲームでは能力値でさまざまな補正が掛かるといった感じだな。


破壊力は物理攻撃に補正。


耐久力は攻撃に対する防御補正。


敏捷力は脚の速さだったり、攻撃の速度の補正。


技術力はあらゆる技に補正が掛かる。


最後に魔法力だけど、これは魔法を覚えていない俺には関係ない能力値だな。


「……偽名ではないようですね。ではアルク様、冒険者の一員として歓迎いたします」

「あ、ありがとうございます?」

「はい、依頼を受けたければ、そちらに依頼表が貼られていますので、確認ください」


そう言って、受付嬢の人は奥に消えていった。名前とか聞こうと思ったけど、受付嬢は忙しいみたいだった。


今度聞いてみよう。それよりこれからどうするか、まず探さないといけないのは宿屋だよな。寝るところがないのは不味い。


本当なら宿を探してから冒険者登録するべきだったけど、冒険者になりたすぎて優先してしまった。まあでも時刻は昼。そんなに焦らなくてもいいだろう。王国を探索してみたいし。


「ようやく、異世界らしい生活が始まったな!」


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