第114話 決勝戦
本選にて二人の勝者まで絞られた。この絞られた二人のうち、更に一人の勝者のみがこの剣術大会の勝者となり、賞金や名誉……そして〈比類なき七剣〉への挑戦権を手に入れる。
「さあ皆様、大変長らくお待たせいたしました!……いや!お待たせしすぎたのかもしれません!!」
フリージアとイブキの決闘が終わり、すぐに十分程の
流石に苛烈な勝負を終えた直ぐに決勝戦ですといのも酷な話だ。観客も怒涛の勝負の連続に一端、落ち着くための時間が必要だった。しかし、それもこの大会を盛り上げて、ずっと進行してくれていた司会スピカ・ラウダ―も登場と同時に終わりを告げる。
「待ちくたびれたぞ!!」
「早く始めてくれーーーーーー!!」
「スピカちゃん愛してるぅうううううううう!!」
再び元気な声と共に戦闘地帯へと姿を現した彼女に観客は歓声を上げる。少しばかり自分の思いの丈を吐き出している輩もいるがそれは些細な問題に過ぎない。
「ありがとう
縦横無尽に飛び交う歓声の中、二人の少年少女が戦闘地帯に姿を現す。そうして、その二人をスピカは声高らかに紹介した。
「まずは前大会上位入賞を果たし、今年は決勝まで勝ち上がる実力を付けてきたグレイフロストの公爵令嬢!〈氷鬼〉フリージア・グレイフロスト!!先ほどは見事な魔法で敵を無力化して見せたが、この決勝戦でもド派手な魔法戦を繰り広げてくれるのだろうか!?」
夕日に照らされた白銀の長髪を靡かせながら少女は戦闘地帯に立つ。昨年からに続き、今年もこの舞台に姿を現した少女はその容姿と実力も相まって人気はかなりのモノである。
「今年は優勝しちまえグレイフロストの嬢ちゃん!!」
「俺は小さい時からお前のファンだったんだ!!」
「やっちまえーーーーー!!」
しかし対する少年も負けてはいない。
「対するは初参加ながら、類まれなる剣技と
一見、少女と見紛うほどの愛らしくも整った顔立ちの少年も、その実力で周囲に絶大な衝撃を残していた。
「キャーーーーヴァイスさまぁああああ!!」
「こっち向いてぇええええええ!?私の為だけに笑ってーーーー!!」
「好き好き大好きーーーー!!」
特に女性からの指示が凄かった。
「聞いた話によればこの二人は同じ魔剣学院に在学。しかも学院内に存在する〈派閥〉の所属も同じとのこと!同門対決となった今回のクロノスタリア剣術大会ですが、果たして勝利はどちらの手にかかるのか!」
先ほどの休憩時間で色々と調べたであろうスピカの補足説明に観客は関心。
相対した二人の少年少女は然れどその説明には似つかわしくない雰囲気を纏う。同じ学院、同門であれどこと勝負になれば仲良しこよしなど言っても居られない。そもそも、この二人の関係性はとても曖昧なものだ。
言ってしまえば関わることの無かった二人がこうして不可思議な縁によって繋がれている全ての元凶は一人の少年なのだから。
・
・
・
「────!!」
ここに立ってから司会の女性が忙しなく大きな声で何かを喋っていた。恐らく、自分たちの事なのだろうと戦闘地帯にて対峙した二人の少年少女は思い至るが、そんなことは直ぐにどうでもよくなる。
────何となく、予想はしていた。
〈勇者〉はずっと内に孕ませていた予兆を確信に変える。驚く必要もない、彼女と対峙するのは必然と言えた。
────この場で戦う相手はきっとあなたになると。
〈氷鬼〉も同じ予感を感じ、そして「やっぱりね」と独り言ちる。何かと共通点の存在する二人だが、しかしてその関係性は曖昧なものだ。
単なる「知り合い」と呼ぶには他人行儀すぎるし、かと言って純粋な「仲間」と呼ぶにはそこまでの信頼関係はない。それでもこの二人の関係性をつなぎ留める最たる理由はハッキリとしてた。
────多分、考えていることは同じ。
それは一人の少年だ。二人の目指すべき先にはどちらも彼が存在するのは言うまでもない。内に秘めた思いは多少の違いはあれど、大きなくくりで視れば同じようなものだ。だからこそ分かる。
「こうしてしっかりと剣を交えるのは初めてね」
「ええ、そうですね……」
「レイの一番弟子だかなんだか知らないけれど、あんたに譲るつもりは毛頭ないわ」
「ええ、俺もこの時ばかりは身分や立場なんて関係なく、これだけは譲れません」
多分、恐らく……十中八九、自分たちの考えていることは似通っていて、そう思えれば自分たちは似た者同士なのかもしれない、と。
「────それでは!クロノスタリア剣術大会、決勝戦を始めましょう!!」
長々とした司会の煽り文句は止み、随分と聞きなれた破裂音が会場内に響き渡る。言わずもがな、開戦の合図だ。
「「ッ!!」」
瞬間、反射的に小年少女は地面を蹴った。ここまで勝ち上がってきた強者達である、更に言えば互いにある程度の手の内や癖は把握済み、縮こまった小手調べなど不要であった。瞬き一つで縮まろうとしている二人の間合い。
「〈氷壁〉!!」
「〈明光〉!!」
しかし、会場に鳴り響いた二つの詠唱によって唐突に変化が起きた。
眩く周囲を照らす光の球体とその光を反射するかのように聳え建った無数の氷壁。
「対策されて当然か……!」
勇者の十八番である初手の目潰しは簡単に反らされる。それどころか無数に出現した氷壁によって眼前の〈氷鬼〉の姿が不確定になり、完全に後手に回された。
「芸のない一辺倒な技ばかりじゃ私には勝てないわよ!!」
一瞬にして姿を眩ませ、それどころかいつの間にか〈勇者〉の背後へと周り、〈氷鬼〉は強襲を仕掛ける。しかし、件の〈勇者〉の表情に驚愕の色は見えない。
「いえいえ、試したんですよ。この程度で潰れるなら本気を出すまでもない……ってね」
迫りくる細剣の一振り。やはり〈勇者〉は焦らない。それどころか悠々と体の向きを反転させて攻撃を受け止めた。激しい刃の衝突、その衝撃の反動に伴って二人の距離は再び一定に離れるた。けれど攻撃の手は緩めない。
「言うじゃない────〈氷槍〉!!」
「〈光弾〉!!」
互いに得意とする遠距離魔法だ、途端に氷の槍と光の弾丸が飛来する。しかも、その数は一つや二つでは済まされず────
「な、なんて数の魔法の打ち合いだぁああああ!?」
一、二、三……瞬く間に数十、数百にも増えて、互いをけん制するように弾幕を張り合う。その数の多さに司会は勿論、観客は唖然とする。けれど件の二人はまったく気にした様子はない。
再び両者は地を蹴る。その間も魔法による砲撃は展開したまま、同時並行で白兵戦へと移行する
「ハァアアアアア!!」
「うおぉおおおおおおお!!」
無数の斬り結び。剣技は同等────いや、少しばかり〈勇者〉に軍配が上がる。攻防の優勢は僅かながらに傾いている。
「流石はフェイド卿に鍛えられただけはあるわね……!」
接近戦では分が悪い。そう判断した〈氷鬼〉は即座に攻め手を変える。
「フリージアさんこそ、流石の魔法制御だ!」
反して、魔法戦に於いてはフリージアに軍配が上がる状況で〈勇者〉はあからさまに距離を取ろうとする〈氷鬼〉を離すまいとぴったり距離を保つ。
付かず離れず、一進一退の主導権の奪い合いだ。このまま続けても平行線、見てる側も当の本人たちももどかしさを覚える。
────先に仕掛けて押し切った方が勝つ!
そう判断した〈勇者〉は一気にトドメに掛かる。
「とっておきだ────!!」
今扱える魔力を両手に握りしめた剣身に全て集中させる。
光り輝く魔力の胎動、周囲をより一層照らす光粒子は剣身に宿り、ソレはやがて大きな刃を形作って……一振りの極光の大剣と成る。
「〈
振り上げた極光の大剣を眼前の〈氷鬼〉へと振り抜く。
「ッ────」
高密度の光と魔力が集約された大剣は空気を焦がすほどの熱を帯びて、仮にここから彼女の厚く、堅牢な〈氷壁〉が立ちはだかろうとも容易く焼き斬るだろう。
────それごと砕き斬るッ!!
勝負はあった────
「行き急いだわね」
「なッ!!?」
かのように思えた。
しかし、〈勇者〉の光の刃が〈氷鬼〉へと届くことはなかった。
何故か?
理由は単純。彼の刃が届く前に、〈氷鬼〉の魔法が完成したからだ。
「とっておきにはとっておき……〈
それは〈氷鬼〉が扱える魔法技の中でも最上位の魔法。〈勇者〉もこの魔法を使われれば勝機はないとずっと警戒していたはずの魔法。だと言うのに魔法の発露さえも察知できずに使われてしまった。
「どう、して……」
気が付けば周囲には霜が舞っており、床一面が白く凍り付いていた。全身が凍てつき、身動きは取れなくなって疑問ばかりが爆発する。そんな〈勇者〉の疑問を〈氷鬼〉は答え合わせをした。
「答えは簡単よ。遅効性、時間差……つまり
「ッ……!!」
詰まるところ、〈勇者〉は最初から彼女の掌の上だったと言うわけだ。初撃の〈明光〉と無数に展開された〈氷壁〉の発動から始まり、白兵戦の中ではずっと防戦一方を演出して着実に周辺温度と魔力の残滓を残し、彼女はばれないように戦闘の至る所に魔力を張り巡らせて大技の発動を狙っていたのだ。
────全く気が付けなかった……!!
気が付いたころにはもう対処のしようがないのだ。〈勇者〉の敗因は相手の大技を危険視しすぎて、攻め急いだことだろう。
「今回は私の勝よ」
「ッ────負けました……」
完全に全身が凍てつき、どれだけ身体に力を籠めようともビクともしない。そこで勝負は終わる。
「決まったぁあああああああああ!今年のクロノスタリア剣術大会の勝者は一年越しの再挑戦を果たした〈氷姫〉フリージア・グレイフロストだぁああああああああ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
次いで割れんばかりの歓声が場内を埋め尽くす。その全てが一人の少女に向けられた賞賛であり、栄誉であった。
けれど彼女はこれだけでは満足していなかった。彼女にとって剣術大会に優勝すると言うことは過程であって、目的ではなかった。
「ついに、ここまで来たわよ……!」
依然として、彼女の綺麗な蒼色の双眸には闘志が漲り一人の少年のみに向けられている。
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