第60話 昇級決闘
〈昇級決闘〉
それは一年かけて学院の中で誰が一番強いかを決める学内順位戦である。
この期間中に生徒間で任意で行われる決闘に勝利すれば〈
簡単に〈昇級決闘〉と〈学院階級〉の関係性を説明するとこんな感じで、授業が終わり、入学式の時にも使われた大講堂にて学院の全生徒がそこに集められていた。誰もかれもその顔つきは真剣そのもので、これから始まる闘争を心待ちにしている様子だ。
────血気盛んなことで……。
致し方なく〈学院階級〉を上げる必要がある俺も、今日から本格的に始まる今年一回目の〈昇級決闘〉の大まかな概要やルールやその他諸々の事前説明を聞きにここまで来たわけだが、ハッキリ言って面倒極まりない。
この際、階級を上げる為に平穏とは無縁の野蛮極まりない決闘へと身を投じるのは受け入れよう。けれども目標である【第一級】の階級へと到達するまでの道のりが長すぎる。十~特級と階級は計十一存在するわけだが、第十級から第四級までは大体一つの階級を上げるのに同じ階級の生徒を20人は倒す必要がある。第四級から第三級からは人口の少なさから簡単に決闘は行われないし、第一級ともなるとその総数は全体の僅か数パーセント。そもそも【第四級】になると昇級の方法が特殊なモノに変わる。本当に選ばれた強者しかたどり着けない境地だ。しかも今日から始まる一回目で決まった階級を今後来年の新年度まで守り抜かなきゃいけないと言う……。
────階級ごとに組み分けがされて、そこから〈昇級決闘〉が開始。最初のうちは母数も多いし簡単に決闘は取り付けられるし、昇級もそう難しくはないだろうが……。
基本的にこの説明会が終われば同じ階級同士で自由に決闘をして争うことが直ぐにできる。細かい条件や規定なんかは存在するが、これだけ守っておけばとりあえずは問題ない。
一つ、互いに同意したうえで決闘をすること。
二つ、基本的に決闘は授業時間外で行うこと。
三つ、人を殺めることは禁ずる。
四つ、これらを守って正々堂々と安全に決闘をしましょう。
────頭沸いてんのかこの学院は?
そう思わずにはいられない。嬉々として常時からこんな殺伐とした催し物を開くのだから正気を疑う。しかも生徒の殆どがノリノリで参加するって言う……本当に血気盛ん過ぎませんか?
しかしながらやるしかない。〈学院階級〉を上げて目当ての本を借りるためには必要なことなのだ。うだうだと文句を垂れて現実逃避をするのはやめにしよう。
なんて覚悟を定めていると────
「説明は以上!それではこれより、現時点での〈学院階級〉を壇上にて開示する!!」
「「「おお!!」」」
壇上にて説明を終えたグイン学院長が声高らかに言い放つ。それだけで大講堂にいた生徒達はどよめき立って大盛り上がりだ。
それもそのはず、気になる今年の〈学院階級〉が発表されるのだ。上級生は去年の〈昇級決闘〉の戦績を加味して、新入生である俺達は試験の内容やこの前の合同訓練の成績で暫定的な〈学院階級〉が振り分けられる。慣例的に一年生は【第十級】からで、成績優秀者は【第八級】が与えられることもある。
────一度目の時は誰がいただろうか?
ここまで来ると記憶はない。そもそもまともに参加もしていないのでここら辺の記憶には何ら期待していなかった。言ってしまえば今回が初参加のようなもなのだ。
「レイ!見に行きましょう!!」
「はいはい」
いつも通り隣に陣取っていた戦闘狂が腕を引いてくる。今回の彼女にとって、この〈昇級決闘〉は正に天国のようなイベントだろう。所かまわず放課後であれば自由に暴れることができるのだ。
────こいつは野放しにしちゃいけない類だろ……。
そう思わないでもないが知ったことではない。この戦闘狂が好き勝手に暴れ回り、周囲にどんな被害を及ぼそうともその責任は俺にではなく、彼女────牽いては学院が被ることになるのだ。俺の平穏を脅かさないのであれば好き勝手に暴れてくれ。
────今のところ彼女と戦うつもりは毛ほどもないし、この期間中はなるべく彼女の周囲に居なければ無問題だろう。
身の振り方を考えながら、張り出された掲示板に群がる生徒を一瞥する。至る所から自分の〈学院階級〉を確認して歓喜や絶望する生徒の声がしていた。
「私の学院階級は……あった!【第八級】よ!!」
「おお……凄いじゃん」
隣でいち早く自分の階級を確認できたフリージアが喜ぶ。それに驚いて見せるが別に不思議なことではない。彼女のこれまでの功績や〈特進〉クラスであることを考えれば一年生で上位の評価である【第八級】は納得である。
────はてさて俺はどうかな……。
〈特進〉クラスに所属していれば【第九級】が最低ラインだと聞いたことがある。この学院でも最高位のクラスに位置するので、それぐらいの実力はあると言うのが学院の評価なのだろう。
どうせ俺はその【第九級】であろうと高を括って掲示板を見るがどれだけ探してみても該当の場所に自分の名前は見つからない。
「……どういうことだ?」
不思議に思っていると隣のフリージアがまたしても俺の腕を引いてきた。そんなに引っ張らないでよ、裾が伸びちゃうでしょうが。
「見てレイ!あなたの名前あったわよ!」
「え? いったいどこに────」
彼女の細い指がとある一点を指し示す。それに釣られて視線を向ければ俺の名前は全く予想だにしない場所にあった。
『【第六級】クレイム・ブラッドレイ』
「────は?」
「凄いわレイ!いきなり上級生と同じ階級なんて!!」
何故か俺は大多数が上級生が振り分けられるはずの【第六級】に振り分けられていた。
────なんで???
全く意味の分からない事態に俺は困惑する。いや、初めから階級が高いのはありがたいし、これで少しは楽に【第一級】を目指せるのだから好都合ではあるのだが……一年生でいきなり上級生と同じ土俵に立つのは何というか────
「気まずい……」
隣の暴動系お嬢様が大げさに騒ぐものだから、周囲にいた他の生徒が何事かと俺達に注目を集め始める。それと同時に、俺が【第六級】と言うことを聞いて殺気を向けてくる上級生までいた。
────あー……もうなんかどうでもよくなってきた……。
いたたまれない気分に許容限界が訪れる。どうして俺がこんな目に遭わなければならないのだ。やはり世界はとことん俺の事が嫌いらしい。
もうあれだ、最速で【第一級】になる為にはなんら不都合はないのだ。これは幸先のいいスタートなのだ。ならさっさと目標を達成して、本筋である読書へと勤しもうではないか。
「私もはやくあなたと同じ階級になるから待ってなさいよ! 聞いてるのレイ!?レイってば────」
そう自分に言い聞かせて隣で自分の事より喜ぶあほの子を黙らせつつ、大講堂を後にする。
────少し黙ってましょうね~。
覚悟を決めたからと言って、無闇矢鱈と目立つのは俺の望むところではないのだ。
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